性同一性障害のフィットネス会員が提訴へ 京都

http://digital.asahi.com/articles/ASHD77593HD7PTIL02K.html

日常生活を女性として送る一方、クラブに行く時は化粧を落とし、男性の服装で通っていた。手術を前に女性用の更衣室やトイレが使えるか、インストラクターに確認した。しかし、支店長の意向で「戸籍上の性別も変えないと無理」と伝えられたという。
障害の診断書と手術の承諾書を支店長に示すと、女性名で会員証を再発行すると言われたが、後日、「本社がだめと言っている」と撤回されたという。さらに「他の利用者が不快に思わないよう男性の格好を」と求められ、「戸籍上の性別に準じた施設利用」に同意する書面への署名・押印を促されたとしている。
性同一性障害特例法で、戸籍上の性別を変えるには未成年の子どもがいないことが条件の一つとなる。経営者は10代の娘がいて、成人するまでは戸籍の性を改められない。そうした事情も支店長に伝えたが、対応は変わらなかったという。

日本国憲法13条では、

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

と定められていて、LGBTの人々について、その権利が対公権力との関係で最大限保障されるべきことは明らかです。ただ、それが私人間ではどうかということになると、社会の中では様々な人々が個々の考え方を持ちつつ生活、活動していますから、憲法上の人権規定を直ちに、ダイレクトに適用できない場面も出てきます。従来、人権規定の私人間効力として論じられてきた問題が絡んできます。
この点に関する判例、通説は、私的自治の原則、契約自由の原則などへ配慮しつつ、憲法の規定を直ちに、ダイレクトに適用するのではなく、民法上の公序良俗などの解釈・適用上、憲法の趣旨を考慮する間接効力説(間接適用説)に立っていて、上記の記事の事件も、今後、その枠組みの中で裁判所の判断が示されることになることが予想されます。
記事では、「性同一性障害と診断され、ホルモン剤の投与で身体的特徴も女性に近づき、昨年3月に性別適合手術を受けた」とあり、こういった人の「女性」性が他の利用者へ違和感、不快感を与えない状態になっているのであれば、女性としての利用を拒む合理性はないということになるでしょうし、戸籍上の性を変更することに、「性同一性障害特例法で戸籍上の性別を変えるには未成年の子どもがいないことが条件の一つとなる」という制約がある以上、戸籍上の性がどうかは形式的な問題であって、そこにこだわって女性としての利用を拒む合理性があるとは言い難いという評価は十分可能ではないかと思います。
ただ、LGBTへの理解がまだ進んでいない、十分とは言えない社会の現状を、直ちに違法、不当と決めつけて摩擦、混乱を引き起こすのもどうかという気は、私個人としてはしていて、徐々に理解、啓発を進めて、この面でも個人が尊厳のある生活を送ることができる社会を構築することが必要ではないかという気はしています。
そういった微妙さの中で、今後、裁判所がどのような判断を示すことになるのか、この紛争がどういった落としどころで解決されるのか、注目すべきものがあるように思います。