特高 二・二六事件秘史 (文春学藝ライブラリー)

2・26事件当時、東京憲兵隊麹町憲兵分隊所属の曹長であった著者が、襲撃され死亡したと思われていたところを実は総理官邸内で生存していた岡田首相を救出した経緯や、その前年に発生した永田陸軍軍務局長斬殺事件の際に、事件発生直後に犯人を確保しその取調べにあたった状況を生々しく語ったもので、書店でたまたま見かけて購入しましたが、一気に読んでしまいました。いずれの事件についても、既に一通りの知識はありましたが、こうして、実際に対応した人物の回顧談を読んでみると、いかに衝撃的な事件であり、特に、総理官邸内にいた岡田首相を反乱軍に占拠された状態下で秘策を講じて救出に成功した様子は実にリアルで、軽い興奮を感じるものがありました。
戦前、戦中の憲兵の活動は、ネガティブに語られて終わりがちですが、解説で佐藤優氏も指摘しているように、危機的な事態が勃発した場合に、それに的確に対処できる機能、人材を社会が持っていることは重要なことではないかと思いますし、著者のような存在がなければ、岡田首相が無事救出できたか、永田軍務局長斬殺の犯人が早期に身柄確保されたかと思うと、その感を強くします。日本でも情報機関が必要だ、CIAのような組織を作るべきだと喧しいものがありますが、大上段に振りかぶってあらぬところに振り下ろしてしまう前に、既存の組織、機関をうまく運用しながら、実務ができる態勢を確実に構築するところから始める必要性を感じます(もちろん、組織、機関の改革、新設、それに合わせた人材育成も必要であると思いますが)。
読みやすく、危機に臨んでいかに対処すべきかが学べる良書だと思いますので、興味ある方は読んでみて下さい。