国際捜査共助に基づき中華人民共和国において同国の捜査官によって作成された供述調書が刑訴法321条1項3号の書面に当たるとされた事例(福岡一家殺害事件上告審判決)

最高裁第一小法廷平成23年10月20日判決(判例時報2171号128ページ)です。
上記のいわゆる「3号書面」では、伝聞法則でありながら例外として証拠能力が認められる要件の1つとして、「特に信用すべき情況」を挙げますが、中華人民共和国で取調べを受けた本件の共犯者(同国では刑事手続上、黙秘権の保障がない)について、その要件を満たしていないのではないかが問題とされたものです。
最高裁は、取調べに際して黙秘権が実質的に告知され、取調べの間に肉体的、精神的強制が加えられた形跡がないなど(判例時報のコメントによれば、予め日本の捜査官が作成した質問事項に基づいて取調べが行われ日本の捜査官が立ち会っていた、とのことです)の具体的事情の下で、321条1項3号該当書面と認定した原判断に誤りはない、とされています。
実務上、こうした「特に信用すべき情況」の有無は、具体的な供述状況、環境に基づいてケースバイケースで判断されてきたもので、最高裁の判断手法は、その枠内にあるものではないかと思われます。また、こういった証拠能力の判断は刑訴法に基づき厳正に行われるべきものではあるものの、国外の刑事司法下で取調べを受ける場合、その制度は様々で、制度として問題があるものが少なくない現状の下で、あくまで個々の供述状況、環境を問題にする以上、取調べに対する日本の捜査機関による様々な工夫(外国捜査機関における取調べにより得られた供述調書が3号書面として証拠請求される可能性がある場合、従来から、日本の捜査官が立ち会うようにされてきたものでした)も含め、「特に信用すべき情況」があったかどうかは、実質的、具体的に検討される必要があるでしょう。もちろん、問題のある制度がそのような要件を減殺する方向で影響していないかも検討される必要があると思います。
3号書面が、特に、こうした重大事件の重要証拠として問題になるケースは、多くはないだけに、今後の参考になる判例と感じました。