社説:憲法と改憲手続き 96条の改正に反対する

http://mainichi.jp/select/news/20130503ddm005070125000c.html

96条は憲法改正の入り口、改憲の手続き条項だ。改憲は衆参各院の総議員の「3分の2」以上の賛成で発議し、国民投票過半数を得ることが必要と規定されている。この「3分の2」を「過半数」にして発議の条件を緩和し、改憲しやすくするのが96条改正案である。

その時の多数派が一時的な勢いで変えてはならない普遍の原理を定めたのが憲法なのであり、改憲には厳格な要件が必要だ。ゆえに私たちは、96条改正に反対する。

法的には、憲法改正に限界があるか、という議論に関わる問題でしょう。憲法の基本原理(国民主権等)について、改正はできないという考え方が有力ですが、改正手続についても、憲法制定権力(制憲権)が、無限の力を持っていた自らの権力を憲法の中に封じ込め、改正についての道筋として改正手続を定めた以上、その本質を改変するような改正はできない、と考えるべきではないかと思いますし、日本の憲法学の世界でも、そういう考え方が有力でしょう。
何が本質的な部分か、について、よく語られるのは、国民投票を廃止する、といったことですが、上記の記事にもある総議員の「3分の2」以上の賛成を発議要件とする、という規定は、改正について硬性のものとするという、憲法制定権力の重大な決断と見れば、それは本質的なもので、要件を緩和する改正はできない、と見る余地も十分あるのではないかと思います。
最近の改正論議は、まず改正ありき、という傾向が顕著ですが、日本国憲法の下で、日本が戦争に巻き込まれることがないまま、平和の中で大きく経済発展を遂げることができたことも十分考慮しつつ、改正の限界ということも念頭に置きながら、何を変え何を変えるべきではないか、ということを慎重に検討する必要を感じます。
例えば、自衛隊は、日本国憲法の解釈により、国際紛争を解決する手段としてではない、自衛のための戦力の保持は禁じられていない、ということでその存在が是認され、今や、陸海空にわたる世界有数の軍隊(実質的な意味で)に成長しています。ここまで大きな勢力になれば、むしろ、9条の存在が、日本の防衛を十分に全うしつつ海外における戦争に巻き込まれないための歯止め(もちろん、戦闘への参加以外での国際貢献は十分果たす必要があると思いますが)になる、という機能にも目を向けなければならないでしょう。「軍隊がない国はありませんから」程度の稚拙な論理(論理とも言えるかどうか疑問ですが)で、9条に手を加えようとすることには、危険なものを感じます。