忘れられた英雄・核戦争を防いだ男

http://fukuma.way-nifty.com/fukumas_daily_record/2006/01/post_ee57.html

冷戦のさなかの1983年9月26日の真夜中、モスクワ近郊のミサイルサイトСелпукнов-15(セルプホフ-15)で突然アメリカからの核攻撃を示す警報が鳴り響いた。ミサイルはまた一つまた一つと増えていき、最終的に5発の大陸間弾道ミサイル (ICBM) がソビエトに接近しつつある事を示していた。

当時の司令官スタニスラフ・ペトロフ中佐は国家の命運そして全世界の命運を担う決断を迫られた。もし彼が目の前にある赤く明滅している「開始」のボタンを押したら間違いなく第三次世界大戦が始まり、双方の国土は焦土と化すのは確実だった。しかも決断のために彼に残された時間は5分足らずに過ぎなかった。

ペトロフは己の分析と直感を信じ,その警報は誤りであるという判断を下した。数千発の核ミサイルを保有するアメリカがわずか5発のミサイルを使って戦争を始めるはずがないと言うのがその理由だった。彼は賢明かつ責任感のある男だった。このストレスの多い恐るべき責任の仕事に就いて以来、いつもそのことについて考えどのようなときにどんな判断を下すべきかを考えていた。

15分後、ミサイルがソ連の国土に降り注ぐことは無かった。後の調査によって,このときの警報はシステムの誤作動であったことが判明した。雲で反射された太陽光が,ミサイルの発射として誤検出されてしまったというものだった。

ツイッターのTLで流れてきたので読んでみたのですが、こういう重大なことが起きていたとは知りませんでした。当時、私は大学入ったばかりで、この時に世界全面核戦争が起きていれば、その後の世界も今の私もなかった可能性が高いでしょう。
この司令官の判断で、偉いと思うのは、緊迫した状況の中で、「数千発の核ミサイルを保有するアメリカがわずか5発のミサイルを使って戦争を始めるはずがない」という、冷静かつ合理的な判断を下しているところです。こういった判断は、機械やロボットではかなり困難なもので(機会やロボットなら、攻撃は攻撃としか見ないはずで、即座に反撃、という判断を下すでしょう)、当時の司令官の判断力、そういう判断力を生み出す「人間力」が、世界を滅亡から救ったのは明らかです。
しみじみと感じたのは、科学技術が発達し、様々な物事が自動化され便利になっていっても、最終的な、究極のところでの判断は、やはり人間が全知全能をかけて行わなければならず、機械やロボットではできない、上記の逸話で言えば、機械やロボットなら攻撃を命じるところを、「数千発の核ミサイルを保有するアメリカがわずか5発のミサイルを使って戦争を始めるはずがない」と判断し攻撃を自制するような力を、人間は持っていなければならない、ということでした。
3月2日に開催される、

第7回 JSSMセキュリティ公開討論会
http://www.jssm.net/jssm/security_day20130302.htm

で、講演者、パネリストを依頼されている関係で、その準備のため、昨年12月に遠隔操作事件で誤認逮捕を生じさせた4つの都府県警察から出た報告書を読んでいたのですが、その中でも、犯人性の否定につながる重要な疑問が生じていたりもしていたものの、疑問をうまく生かせず、誤りを是正できていなかったことが浮き彫りになっていました。サイバー犯罪捜査、というと、高度な技術を駆使して、という方向に話が流れがちですが、それだけではなく、上記の司令官のような、厳しい状況の中でも合理的な疑問を、誤った行動の自制へと結びつけるような、高い人間力を持った人材を増やし、要所に配置するということも強く求められている、ということを改めて感じました。これは、あらゆる組織で言えることでもあるでしょう。