前科を証拠に使うには「明確な特徴」必要 最高裁初判断

http://digital.asahi.com/articles/TKY201209070349.html

被告が有罪か無罪かを判断するために、被告の前科を証拠として使うことが許されるか。この点が争われた刑事裁判の上告審判決で、最高裁第二小法廷(裁判長・竹崎博允長官)は7日、「前科に明らかな特徴があり、起訴内容と相当似ているため、同じ犯人と合理的に推認させる場合に限って許される」との初判断を示した。
今回の裁判で検察が立証しようとした「窃盗目的で侵入し、金品が得られないと灯油をまいて放火する」という前科については、「手口がさほど特殊とは言えない」と述べた。その上で、前科の立証が許されると判断した二審・東京高裁判決を破棄。審理を同高裁に差し戻した。

裁判員裁判:前科言及の冒陳を制止 東京地裁
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20100707#1278433207

でもコメントしましたが、こういった「前科による立証」は、刑事訴訟法における証拠能力の問題として、従来、議論されてきたところですね。広く「(悪)性格証拠による立証」の問題として取り上げられることが多いと思います。
この人は犯罪を犯す傾向が強い、同種前科がある、同種余罪もある、といった立証(状況証拠による推認)は、一見、わかりやすいだけに、それを無制約に許容すると、不当な予断、偏見に基づく誤った認定につながりやすく、現行刑事訴訟法の母法である英米法でも、昔から、原則として証拠能力がないとされ、例外としてどこまで許容されるか、という議論が行われてきたという経緯があります。そういった、例外として許容されるとされてきた場合として、単に同種前科である、というにとどまらず、特殊な手口・方法による犯行である場合、ということが言われていて日本でも通説化していたもので、最高裁の判断を見ると(赤字は私が付したもの)、

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120907162323.pdf

前科も一つの事実であり,前科証拠は,一般的には犯罪事実について,様々な面で証拠としての価値(自然的関連性)を有している。反面,前科,特に同種前科については,被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく,そのために事実認定を誤らせるおそれがあり,また,これを回避し,同種前科の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため,当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど,その取調べに付随して争点が拡散するおそれもある。したがって,前科証拠は,単に証拠としての価値があるかどうか,言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく,前科証拠によって証明しようとする事実について,実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されると解するべきである。本件のように,前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合についていうならば,前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し,かつ,それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから,それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって,初めて証拠として採用できるものというべきである。

とされていて、従来の通説化していた考え方を取り入れ(「同種前科の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため,当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど,その取調べに付随して争点が拡散するおそれもある」というのは、従来の議論よりもさらに踏み込んでいると思います)、今後の基準になり得るものとして、より明確化したと言えるのではないかと思います。
特に裁判員裁判において、直接証拠が乏しい事件で、検察官が、こういった立証に走る、ということは、今後も起き得ることで、そういった立証について、重要な指針になる判例と言えると思います。