http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111103-00000109-san-soci
同小法廷は、同罪の成否の判断は(1)事故の態様(2)事故前の飲酒量(3)酩酊(めいてい)状況(4)事故前の運転状況(5)事故後の言動(6)飲酒検知結果−などを総合的に考慮すべきだと指摘した。
その上で、今回のケースは「事故前の飲酒で平衡感覚を保てないほどで、被告は相当程度の酩酊状態であった」と認定。事故直前に今林被告が約8秒間、被害者の車に気付かず追突したことに触れ、適用解釈について「飲酒のため前方を注視して危険を的確に把握して対処することができない状態も、正常な運転が困難な状態に当たる」との初判断を示し、危険運転致死傷罪の成立を認めた。
決定は、5人の裁判官のうち4人の多数意見による結論。田原睦夫裁判官(弁護士出身)は反対意見を述べ、「事故後の言動や飲酒検知結果からは、正常運転が困難な状態にあったとは推認できない」と酩酊状態を否定。「約8秒間の前方不注意との一事をもって飲酒の影響とするのは経験則違反である」と述べ、業務上過失致死傷罪の適用が相当とした。
1審判決(危険運転致死傷罪を認定しなかった)の後に、
福岡・幼児3名死亡事故、取材に対するコメント 1
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080109#1199841518
とコメントしたことがありますが、その際に、
それ以外の客観証拠としては、アルコール摂取量(飲酒量)、運転前及び運転時の言動(飲酒場所の関係者や同乗者の目撃状況)も問題になるでしょう。さらに、事故の態様自体が、「飲酒の影響で正常な運転が困難な状態」を立証することもあります(通常なら起こりえない事故態様であって、「飲酒の影響で正常な運転が困難な状態」にあるからとしか考えられない、という観点)。福岡事件では、被害車両に気づかず追突したことをもって、検察官は、「飲酒の影響で正常な運転が困難な状態」にあったことの現れ、としたようですが、裁判所は、原因は脇見であると認定したようであり(したがって、「飲酒の影響で正常な運転が困難な状態」の現れとは言えない)この点は、事実認定の問題として、今後、控訴審で問題になる可能性があると思います。
とコメントしました。本件では、記事にもあるように、危険運転が認定されるにあたり、8秒間にわたり被害車両に気付かず追突した、事故態様が重視されたようであり、ただ、そこには、直ちに飲酒の影響とは見られないのではないか(脇見の可能性など)という見方をいれる余地もあるため、田原裁判官の反対意見が付されることになったものと推察されます。事実認定の上で、微妙さがあった事件ということは言えるでしょう。
危険運転致死傷罪は、危険な運転をそれと認識して行い、その危険が顕現化した場合に重く処罰するという立法趣旨に基づいて立法されたもので、今回の最高裁判決で、元々高く設定された適用のハードルが下げられたということにならないと思いますが、危険運転を認定するにあたり、事故態様を重視しすぎると、一種の結果責任を問うてしまうことになる恐れもあり、他の諸事情もバランス良く考慮しつつ、誤りのない危険性の認定を行うことが、今後も求められているように思います。
追記:
判例時報2152号15頁(最高裁第三小法廷平成23年10月31日決定)
解釈として、「飲酒のため前方を注視して危険を的確に把握して対処することができない状態も、正常な運転が困難な状態に当たる」という点は是認できると思いますが、本件がそれにあたるかどうか、という事実認定については、かなり微妙なものがあったのではないかという印象を、やはり受けます。