公開シンポジウム「可視化とあるべき取調べ」(2011年8月7日・神戸国際会議場メインホール)

先日、神戸で行われていた国際犯罪学会第16回世界大会において行われた、日本弁護士連合会主催の上記シンポジウムを傍聴してきました。
シンポジウムでは、

レイ・ブル教授(英国レスター大学・心理学)の講演
高見秀一弁護士による事例報告(知的障がい者が起訴されたが公訴が取り消された事例)
小坂井久弁護士による「可視化反対論を検証する」と題する講演
パネルディスカッション

という流れで進みました。
ブル教授の講演では、取調べの全面可視化が行われている英国で、

1 捜査上の事情聴取の目的は、捜査対象の事柄について真実を発見するため、被疑者、目撃者、または被害者から正確で信頼できる情報を得ることにある
2 事情聴取は先入観なしに始めるべきである。事情聴取対象者から入手する情報は、捜査官が既に知っている事柄または合理的に確認できる事柄と対比して常に検証すべきである。
3 被害者か目撃者か、または被疑者かを問わず、傷つきやすい人々(弱者)には常に特別な配慮をもって接しなければならない。

といった原則に基づく、PEACEアプローチという手法により、取調官に対するトレーニングが行われていることなどが紹介され、国情やカルチャーが異なり、そっくりそのまま導入はできないとしても、今後の日本における取調べの在り方を考える上で、参考になると思いました。話の中で、邦訳が

自白―真実への尋問テクニック

自白―真実への尋問テクニック

  • 作者: フレッド・E.インボー,ジョセフ・P.バックリー,ジョン・E.リード,小中信幸,渡部保夫
  • 出版社/メーカー: ぎょうせい
  • 発売日: 1990/02
  • メディア: 単行本
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として出ている本で紹介されているような、駆け引き、トリッキーな手法などによる取調べ手法が批判的に語られていたのも印象的でした(
この本自体は、取調べを勘や経験に頼らず確立されたテクニックに基づいて行おうとしている点は評価でき、批判的に読むべき部分を含め参考になる内容です)。
事例紹介では、本ブログでも、

大阪地検>検事、アリバイ削除指示 法務省が懲戒
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20101222#1292997447

とコメントした放火事件が紹介され、コミュニケーション能力に問題がある被疑者の特性に対する理解や配慮を欠いた、不適切な取調べにより、事件がつぶれてしまい、真相解明も困難になって、公訴取消に至った経緯に、かなり興味深いものがありました。取調官自体の資質、能力の低下にも、かなり深刻なものがあることが、かなり深刻に感じられました。
小坂井弁護士の講演やパネルディスカッションでは、取調べ可視化の必要性や反対論に説得力がないことなどが熱く語られていました。
特に印象に残ったのは、上記のようなブル教授の講演で、可視化が導入された、その先にある、取調官に対するトレーニングの重要性や、今までそういったことをきちんとやってこなかっただけに、すぐには効果は出ず軌道に乗るまでの困難さなどが思いやられました。こういう感想が出てくるのは、かつて取調べを実施する側で苦労したという、弁護士らしからぬ経験が色濃く反映しているせいでしょう。
配布資料中には、昨年11月に、日弁連が英国の可視化事情を視察した結果をまとめたものも含まれ、今後、この問題を考えて行く上で有益なシンポジウムであったと思いました。