日航機事故遺族、作家提訴の構え 「手記と表現酷似」

http://www.asahi.com/national/update/0707/TKY201107070207.html

たとえば池田さんの家族を取り上げた部分で「不安と疲労のために、家族たちは“敗残兵”のようにバスから降り立った」という記述は、「雪解けの尾根」の「みなさすがに不安と疲労の色濃く、敗残兵のようにバスから降り立った」と似通っている。
池田さんは「敗残兵という表現は、戦争を体験した世代で、かつその場にいた遺族だからこそ発することのできた固有の表現。著書に記した言葉は、苦悩の中で紡ぎ上げたもので、盗用は許されない」と話す。

著作物は、著作権法上、「思想又は感情を創作的に表現したもの」である必要があり、創作性がある著作物と言えるかどうかについては、過去に、積極、消極ともに多くの事例があります。
こういったノンフィクション作品では、事実を事実として伝えることに主眼があり、そのための表現として、例えば、「敗残兵のように降り立つ」とすることは、特に創作的とは言えない、ありふれた表現と、裁判所が判断する可能性はあるのではないかと思います。以前、本ブログで、見出しの著作物性が問題になった件で

著作権侵害差止等請求控訴事件(読売新聞東京本社対デジタルアライアンス)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20051012#p1

とコメントしたことがありますが、高裁判決では、

一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。

としていて、こういった性格は、ノンフィクション作品にも類似した点があるのではないかという気はします。
上記の記事で取り上げられた紛争は、今後、提訴の可能性もあるようですが、そうなった場合の、裁判所の判断は注目されるように思います。