北海道開発庁長官が、下部組織である北海道開発局の港湾部長に対し、競争入札が予定される港湾工事の受注に関し特定業者の便宜を図るように働き掛ける行為について、賄賂罪における職務関連性が認められた事例

最高裁第一小法廷平成22年9月7日決定で、著名な鈴木宗男氏に対するものですが、判例時報2095号155頁以下に掲載されていました。事実認定の在り方が妥当かどうかは、決定からはわかりません。
賄賂罪が成立するためには、「職務に関して」賄賂が収受される必要がありますが、法令上明記された職務に限定されず、職務に密接に関係する行為に関するものも、「職務に関して」に含まれるというのが、確立した判例です。
最高裁は、本件で、被告人の上記のような行為について、被告人に、港湾工事の実施に関する指揮監督権限がない(したがって法令に明記された職務に関するものにはならない)という状況の下で、

1 職員に対する服務統督権限を背景に、予算の実施計画作製事務を統括する職務権限を利用して、職員に対する指導の形を借りて行われていること
2 働き掛けの内容は、予算の実施計画において概要が決定される港湾工事について競争入札を待たずに工事請負契約の相手方である工事業者を事実上決定するもので、このような働き掛けが金銭を対価に行われることは北海道開発庁長官の本来的職務として行われる予算の実施計画作製の公正及び公正に対する社会の信頼を損なうものであること

から、職務密接関係行為であるとしています。
なお、決定でも認定されているように、北海道開発局港湾部長が、落札すべき工事業者を指名し同部の職員を介して業者側に通知し、通知を受けた業者が談合を繰り返すという「官製談合」が常態化する中で、被告人の行為が行われたことについては、そのような違法な職務に関するものは職務密接関係行為にあたらないという弁護人の主張に対し、

3 当該行為が密接関係行為に当たるかどうかは本来の職務との関係から判断されるべきもので、その行為が違法な行為であることによってその判断は直ちには左右されない

という判断を示していることも注目されます。
職務密接関係行為が、ここまで幅広く認められて良いのかということについて、大いに議論はあり得るところであり、今後の職務密接関係理論にどこまで影響を与えるのか、検討は必要という印象を受けます。