【耳かき殺人 判決要旨】(上)(下)

http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/458179/
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/458166/

このような林被告の心理状態の形成には、約1年間にわたって店に通い詰めていた当時の林被告と江尻さんとの表面上良好な関係が、少なからず影響していることも否定できない。これらのことからすると、林被告が犯行に至った経緯や江尻さん殺害に関する動機は、極刑に値するほど悪質なものとまではいえない。

鈴木さんの殺害は計画性が認められず、林被告にとっても想定外の出来事だったというべきである。鈴木さんの殺害が、「計画に伴う必然的な結果」とする検察官の主張は採用できない。

しかしながら、林被告の言動や態度は、人格の未熟さ、プライドの高さなどに起因するものである。ことさら江尻さんの名誉を傷つけたり、遺族を傷つけたりしようとする意図があったとまでは認められない。
また、今現在、林被告が置かれた立場からすると、林被告が必要以上に防御的になるのは理解できないことではない。「死刑を選択すべきか」という観点でみれば、林被告が事件直後から後悔し、林被告なりに反省の態度を示していることは、相応に考慮すべきである。
林被告には前科がなく、20年以上勤続した会社で対人的に大きなトラブルを起こすことなく、まじめに働いていた。これらのことも、「死刑を選択すべきかどうか」という観点でみれば、酌むべき要素である。

あくまで報道で見る限り、ですが、死刑を回避した理由は、上記のような事情によるもののようです。
過去の、殺害被害者が2名の事件では、死刑に処せられたものもあれば無期懲役に処せられたものもありますが、動機、計画性、反省、前科等も含めた生活状況、といった点は、死刑か無期かを分けてきた要素であり、評議における検討の結果、ぎりぎりで死刑が回避された、ということになると思います。
ただ、諸事情の評価ということになると、例えば、検察官が主張した、祖母に対する殺害行為を「計画に伴う必然的な結果」という主張にも相応の説得力は感じられますし、本件における犯行の残虐性こそ重視すべきで死刑相当ではないかという意見も十分傾聴に値するという印象を受けます。
その意味では、極めて微妙な事案であったということは言えるでしょう。こうした、量刑上の、それも死刑に処するかどうかという究極の判断を、量刑判断に習熟していない一般の人々に行わせることの困難さ、問題といったことも、今後、改めて議論する必要もありそうです。