尋問技術

インターネット上のあるところで、法科大学院における尋問技術に関する教育が話題になっているのを見かけました。
最近の法科大学院司法研修所で、尋問技術について、何がどのように教えられているか、実務に追われるしがない弁護士である私にはよくわかりませんが、少なくとも、法科大学院で、そこまで手を出すのは無理であり、せいぜい問題意識を持つ程度のごく簡単な教育にとどめておくのが無難でしょう。
法科大学院で学んだ後、1回目の受験で司法試験に合格するということになると、勉強できる期間は約3年間です。3年間に、初学者が法律に慣れ、基本六法及び選択科目になっている法律について合格レベルに達するということになると、法解釈について学ぶだけで相当な負担になるでしょう。問われたことを答案上に反映できるだけの論述能力も涵養する必要があり、遠い昔の私自身の経験(大学1年生から勉強を始め大学4年生の10月に合格)に照らしても、とても尋問技術まで学ぶ余裕などないと思います。中途半端にやって身につくものでもなく、この段階では思い切って切り捨ててしまうのが適当でしょう。やるとしても、上記の通り、問題意識を持つ程度のごく簡単な教育にとどめておくべきではないかと思います。
では、司法試験合格後、どのように学ぶべきかですが、私の経験に照らすと、尋問に関する名著と言われているものを、まずしっかりと読んでみることが参考になるように思います。私が読んで参考になると思ったのは、

事実審理―法廷に生かす証人尋問の技術

事実審理―法廷に生かす証人尋問の技術

反対尋問 (旺文社文庫 644-1)

反対尋問 (旺文社文庫 644-1)

や、意外に思われるかもしれませんが、

事件 (新潮文庫)

事件 (新潮文庫)

も、尋問シーンが非常にリアルで、読んでいて参考になった記憶があります。たいした能力もない実務家が自慢話のように書いているものや、ノウハウの紹介程度にとどまっているものは、害にまではならないと思いますが、それほど役立たないような気がします。
司法修習生までは、実際の事件の中で尋問するということができませんが、実務に入れば、その機会が次々と出てきます。経験がない頃は、特に意識して準備に時間をかけ、面倒がらずに、尋問で何を狙うかということを念頭に置きながら、きちんと尋問事項を練って作っておき、それに基づいて尋問し、尋問後は尋問調書に早めに目を通して、どこまで意図したことが実現できたか、きちんと検証を行うべきでしょう。
尋問で特に難しいのは、後になって見ると、ここはもう1歩踏み込んでおくべきだった、と感じられる部分があったり、逆に、ここは深追いし過ぎてかえって失敗した、と感じられる部分があったりして、それは後になって冷静に振り返ればわかることであっても、尋問時には瞬時の判断で突っ込む、引くといったことを決めねばならない、というあたりでしょう。
尋問がわかりやすいかどうか、言葉の発し方が適切か、といったことは、自分ではなかなかわかりにくいものなので、一緒に尋問に立ち会っている先輩、後輩、同僚がいれば、忌憚のない意見を聞いてみると有益なアドバイスが得られる可能性があります。他人から問題点を指摘されたら、謙虚に耳を傾け、次回以降に反映させるようにすべきでしょう。
忙しい中ではなかなか難しいものではありますが、尋問がうまいと定評がある人の尋問を、傍聴席で聞いてみるということも、かなり有益ではないかと思います。私が司法修習生の当時、刑事裁判修習では、かなり法廷傍聴をしましたが、検事や弁護士で、うまい尋問をする人は、少数ながらいて、かなり勉強になった記憶があります。修習期間が短縮され、昔に比べてそういった機会が減ったのは残念と言うしかありません。
こういった作業を、地道に、5年、10年と続けることで、元々の才能も相まって、うまくなる人はかなりうまくなるでしょう。私の場合、まだまだだな、と思いつつ、20年余りが経過してしまい、度外れて下手とは思いませんが、それほど上達せず現在に至っていて、もうこれ以上うまくはなれないはずですが、これから実務家になろうとする人、なって日が浅い人は、大きな可能性を持っているわけですから、是非しっかりと勉強してもらいたいと思います。