名誉棄損:地方3紙に賠償責任なし 通信社記事巡る訴訟

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090728k0000e040096000c.html

高裁判決は1審同様、共同通信について「警視庁の会見や病院の内部調査報告書に基づいている」と賠償責任を否定。一方、1審は3社について「配信を受けたことだけを理由に、記事が真実と信じる相当の理由があったとは言えない」と賠償を命じたが、高裁は「3社は取材にあたっての注意義務を共同に依拠していた」と賠償責任を否定した。

女児術後死亡記事訴訟…共同の責任否定、地方紙に損賠命令
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070919#1190163847

で、

「配信サービスの抗弁」について、日本の最高裁は、今のところこれを肯定していませんが、配信側(本件では共同通信)について、上記のように真実と誤信する相当な理由があった、という認定がされた場合に、配信を受けた側も、一種の「抗弁の援用」ができる、という限度では、少なくとも認めておかないと、上記のように、配信した側は免責されるのに、配信を受けた側は免責されない、という、何とも奇妙なことが起きてしまうと思います(この種の抗弁は、各被告ごとに検討する以上、当然だ、と言ってしまえばそれまでですが)。
この点は、今後、予想される上訴審の中で十分検討される必要があると思います。

とコメントした事件の控訴審判決ですが、私がコメントで指摘したような方向での判決になったようですね。

名誉棄損訴訟の判決要旨 共同通信の手術死亡事故記事
http://www.kahoku.co.jp/news/2009/07/2009072801000673.htm

を見ると、

3社は社費の支払いを通じ共同通信の運営費用を負担する一方、共同通信から記事などの提供を受け、自社取材の記事などを合わせて新聞を制作。他方で共同通信は社費などを活動資金として世界的規模で取材活動をした結果の記事を加盟社に配信、それぞれの新聞制作に供するという相互関係を形成している。これは配信記事に関しては、3社が取材に関して求められる注意義務を、共同通信が履行することを前提としている。
通信社を一方の核とするこうした報道のシステムは、全国民にあまねく種々の情報が伝達される道筋の確保という観点において有用であるというばかりか、全国紙のほかに地方紙が存立する実際上の基盤を提供するという意味で、情報伝達媒体の多様性の確保という観点からもこれを積極的に評価することができる。民主主義社会で国民が国政に関与するための重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕することが期待された報道機関による報道の一つの形態として尊重するべきものだ。
共同通信が正確敏速に記事を配信する上で必要な組織、態勢を整え、正確性などについて複数のチェックをするようにするなど適正な取材活動を確保するために必要な措置を相応にしていることなどによれば、3社は、配信記事について取材の注意義務が履行されたと期待し、依拠することができる法的地位にある。3社が負担する不法行為上の注意義務も、共同通信が代わって引き受ける地位にあるともいえる。
こうした観点から掲載記事を見ると、3社には内容を真実と信じる相当の理由があり、故意や過失はない。担当医の損害賠償請求は認められない。

という判断が示されていて、配信サービスの抗弁を全面的に認める趣旨のように読めなくもありませんが、おそらく、そこまで踏み込んだものではなく、配信元(本件では共同通信)について名誉毀損の違法性阻却事由が認められる場合に、配信先にもその効果を帰属させることで、同じ記事について配信元と配信先で結論が異なるという奇異な取り扱いを回避しようとするものではないかという印象を受けます。
この判決を契機に、配信サービスの抗弁に関する議論が高まるかもしれません。また、今後、上告された場合に、最高裁が以前とは異なった判断を示す可能性も注目されるでしょう。