急迫不正の侵害に対する反撃として複数の暴行を加えた場合において、単独で評価すれば防衛手段としての相当性が認められる当初の暴行のみから傷害が生じたとしても、一個の過剰防衛としての傷害罪が成立するとされた事例(最高裁第一小法廷平成21年2月24日決定)

判例時報2035号160ページ以下に掲載されていました。
暴行が複数、連続して加えられた場合に、別個の暴行と見るか、一体の暴行として見るかは、通常は、行為態様や行為者の主観面等の「事実面」を総合的に見て判断すべきものですが、本件のように、当初の暴行から傷害が発生したが正当防衛成立、その後の暴行については過剰防衛と評価されるような場合は、「規範的」に見て質的に異なる評価がされるということで、その点を重視し、一体ではなく別個の暴行と見るべきではないかと思います。そうしないと、判例時報のコメントで、この決定が事例判断のスタイルをとった理由として「推察」されている、当初の暴行から生じた傷害により死に至ったが(傷害致死)それについては正当防衛成立、その後の暴行(死因とは無関係)については有罪、といったケースで、全体として傷害致死罪が成立し有罪(その後の暴行が過剰防衛なら過剰防衛成立)という過酷な結論になってしまうことが、回避できなくなってしまうでしょう。
暴行の一体性をどこで見て行くかということについて、重大な問題提起がありながら、それに対し十分答えていない判例という印象を受けます。

追記(平成21年6月28日):

林幹人「量的過剰について」(判例時報2038号14ページ以下)

正当防衛に当たる暴行及びこれと時間的、場所的に連続して行われた暴行について、両暴行を全体的に考察して一個の過剰防衛の成立を認めることはできないとされた事例(最高裁平成20年6月25日決定・判例時報2009号149ページ)
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080913#1221309224

との関係も含め、分析、検討されています。
その中で、

急迫不正の侵害の有無・程度といった、行為の違法性を決定する事情を無視して、行為の意思・態様だけに着目して、行為の一体性・連続性を独立に問題とするのは、疑問だということになる。行為の一体性・連続性は、犯罪の成否に直結するものである以上は、違法・責任の判断と無関係に行ってはならないと考えられる。
(18ページ)

とあるのは、私の上記のような素朴な実務感覚と共通するものがあるように感じました。