被告人が、自らの暴行により相手方の攻撃を招き、これに対する反撃としてした傷害行為について、正当防衛が否定された事例(最高裁平成20年5月20日第二小法廷決定)

正当防衛:「先に手を出し反撃され攻撃」は認めず 最高裁
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080531#1212164198

でコメントした最高裁決定ですが、判例時報2024号159頁以下に掲載されていました。
自招侵害に対する正当防衛が認められないとしても、その根拠をどこに求めるか、自招侵害である以上、およそ正当防衛自体が許されないのか(例えば、殺されてしまうような場合も許されないか)等々、諸説入り乱れてなかなかわかりにくい分野ですが、最高裁は、さすがにうまく処理していて、本件の事実関係の下で、被害者の攻撃を、

被告人の暴行に触発された、その直後における近接した場所での一連、一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえるから

と、自招侵害の範囲が過度に広がらないよう、「直後」「近接した場所」「一連」「一体」といった表現で限定しつつ自招侵害と評価し、そのような被害者の攻撃が、

被告人の前記暴行の程度を大きく超えるものでないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない

として、自招とはいえ、被害者の攻撃が、先行する行為の程度を大きく超えるような場合には正当防衛が成立する余地も残しつつ正当防衛を否定しているのが特徴です。
上記のような意味での「根拠」は明確になっていませんが、その辺は、「被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない」という表現で、実務としては十分という考え方でしょうか。
この分野では重要な判例であることは間違いないでしょう。

追記1:(平成21年2月15日)

「自招防衛」と正当防衛の制限ー最高裁判所平成二〇年五月二〇日第二小法廷決定(本誌二〇二四号一五九頁)を素材にして 吉田宣之 判例時報2025号13ページ

追記2:(平成21年12月26日)

判例評論611号(明照博章)判例時報2057号197ページ