強盗強姦罪の成否に関する事実認定が争われた事例(最高裁第一小法廷平成19年10月10日決定)

判例時報1988号152ページ以下に掲載されていました。決定が出た当時、インターネットのニュースなどで報じられているのを見た記憶があり、興味を感じて、一通り読んでみました。
事案の中で、強姦罪の成立については争いがなく、「強盗」の犯意、行為まで認められるかどうかが争われていたようで、1審では否定(強姦罪を認定)、2審では強盗の点も認め強盗強姦罪で破棄自判という経過をたどり、なかなかの難事件であることは間違いないと思われました。
甲斐中裁判官(検察官出身)が、強盗強姦罪成立肯定の立場から、横尾、泉裁判官が否定の立場(強姦罪のみ成立)から、補足意見を明らかにしていますが、事実認定のスタイルが異なり、興味深いものがあると思いました。
甲斐中裁判官の手法は、検察庁の決裁官とか東京高裁の裁判官によくあるパターンで、事件の「筋」を重視し、一旦、これは信用できると判断すれば、細部の矛盾とか変遷を過度に重視せず事実認定を行う、という傾向のものです。「疑わしきは被告人の利益に」という観点がないわけではありませんが、被疑者、被告人は嘘をつくもの、被害者は嘘をついても仕方がない存在、という目で物事を見ている面があり、被疑者、被告人供述の矛盾、変遷は徹底的に弾劾されますが、被害者供述の矛盾、変遷は何となく大目に見られがちです。
一方、横尾、泉裁判官の手法は、弁護士や、西のほうの裁判官によくあるパターンで、「疑わしきは被告人の利益に」という観点から、各供述の細部にこだわり、被害者供述であっても矛盾、変遷は見逃さず、徹底的に検証する傾向のものです。やりすぎると、「木を見て森を見ず」といったことになってしまう危険性もあります。
どちらの手法が正しい、とも、にわかには言いにくい面がありますが、上記の事件について見た場合は、あくまで印象ですが、甲斐中裁判官の「筋を見る」手法のほうに分があったような気がします。しかし、常にその手法が正しいとも言えません。
事実認定に興味を持つ人にとって参考になる決定、と言えるように思います。