http://www.chunichi.co.jp/article/national/news/CK2008021302087023.html
検察側は「犯罪事実は被告人質問で十分立証できた」として、証拠請求していた捜査段階の被告の自白調書などを撤回した。検察側が被告の供述調書の請求を取り下げるのは極めて異例。裁判員制度を意識し、裁判の迅速化を図る目的とみられ、今後、同様のケースが続くとみられる。
一方、歌織被告は被告人質問で「警察官や検察官の取り調べで、怒鳴られたり脅されたりして、不本意な調書を作られた」と述べ、供述が任意ではなかったと主張。取り調べの際に検察官から「風俗で働いていた。犬畜生と同じだ。おまえの事件なんて、どうせ男とカネなんだろ」などとののしられたと述べた。検察官の作成した調書の内容を否定し続けると、以前中絶した時の胎児のエコー写真を机の上に並べられて「法廷でこの写真を出していいのかと脅された」と訴えた。
自白調書の任意性を争われ、その理由を具体的に述べられた後に、検察官が請求を撤回すれば、やはり任意性に問題がある自白調書だったから、という印象を裁判所に与える可能性が高いように思います。そういう意味で、公判立会検察官としては、あまりやりたくないこと、やるべきではないこと、というのが一般的な感覚だと思いますが、やはり、上記のような被告人質問の結果を見ていると、そうするしかない、といった判断が働いたのではないか、という印象を受けます。
弁護士の立場から、担当する事件の中で、問題のある取調べ、というものを、時々経験することがありますが、人間的に幅や深みがなく、言語能力、表現能力が劣っていて、被疑者との言葉のキャッチボールができなくて、自分の意に沿わない供述が出ると罵倒したり当り散らす、といった、低レベルの取調官が、徐々に増えているような印象を受けます。一言で言えば、「人間力が低い」という感じでしょうか。学校や司法試験、司法研修所でのお勉強がよくできるということと、こういった人間力が高いということは、別問題なので、良い取調官になろうと志す人は、そのための勉強、研鑽を地道に重ねる必要があるでしょう。
以前、
- 作者: B.フリーマントル,Brian Freemantle,稲葉明雄
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を読んでいた際、英国情報部員である主人公が、ソ連(懐かしい響きですが)の亡命者を取り調べ、暗殺計画の端緒をつかむ、というシーンがあって、それまでの経験の浅い取調官をなめきっていた亡命者に対し、自らの豊富な経験を巧みに示しつつ、徐々に心を開かせ核心に迫る情報を引き出して行くテクニックが、非常にうまいと感じたことがありました。
また、
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には、誘拐殺人事件の被疑者に対し、突きネタも時間も限られている中で、取調官である刑事が、一気に勝負に出て、自白を引き出す迫真のシーンがありますが、これも非常に参考になった記憶があります。
ついでに言うと、
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には、かつての造船疑獄事件(指揮権発動で有名)の際、若き日の河井信太郎検事が、重要な被疑者に対し、ここで真相を明らかにしないと今後再び世に立って働けないのではないか、と説得し、自白を得るシーンが出てきますが、これも参考になった記憶があります。
取調官が、他人の取調べを直接見て学ぶ、ということは、特に検察官の場合は難しく、できるだけ本を読んだり他人の体験談を聞くなどして、良い取調べ、効果的な取調べができるように勉強を積み重ねて行く必要がありますが、最近の取調官は、そういった努力に欠けているような印象を受けます。
鳩山法務大臣は、
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2008021200414
によると、
自民党の三ツ矢憲生氏は、警察による容疑者取り調べの際の録音・録画導入の是非について質問。鳩山邦夫法相は「自白の任意性を証明するのに使うのはいいが、取り調べの機能は相当損なわれる」と述べ、導入に慎重な考えを示した。
とのことですが、もう既に、取調べの機能は相当損なわれているのではないか、という観点で、法務官僚の口車に乗らないようにしつつ、この問題を虚心に見てみることが必要ではないかと思います。