ウイルス犯摘発 作成者を罰する法律が必要だ(1月27日付・読売社説)

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20080127-OYT1T00029.htm

刑法には、ウイルスを取り締まる「電子計算機損壊等業務妨害罪」がある。ウイルスを作成し、他人のコンピューターに感染させてデータを壊して業務妨害した際に適用される。
だが、作成と配布だけでは、この罪に問うことができない。京都府警の捜査でも、業務妨害などの事実をつかむことはできず、適用を断念した。

京都府警が摘発した

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20080124#1201178346

の事件ですが、電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法第234条の2)の構成要件は、

人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

というもので、

1 a 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、
  b 若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え、
  c 又はその他の方法により、
2 a 電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、
  b 又は使用目的に反する動作をさせて、
3  人の業務を妨害

の3つをすべて満たさないと、犯罪は成立しないと解されています(上記の1のaからc、2の中のabは、それぞれ、いずれかを満たせば足ります)。
また、3の「業務」は、「職業その他社会生活上の地位に基づき継続して行う事務又は事業」を言うとされていて、個人的な活動、家庭生活上の活動、といったことはここでの「業務」からは除外されます。
ウイルスを作成、配布した行為を、電子計算機損壊等業務妨害罪に問おうとすれば、上記の1bは満たしても、その結果として2や3にまで及んだ、ということの立証がかなり困難になるはずです。そもそも、この種の犯罪では、個々の被害者からの被害届を受けて捜査が行われるのが一般ですが、奥村弁護士も指摘しているように、

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20080127/1201384138

被害届をとることに困難が伴いそうです。だからこそ、共謀罪と無理心中させられそうな刑法改正案(ウイルスの作成、提供等だけでも処罰できる)が国会に提出されたわけですが、成立に至っていない状態です。
評判が極めて悪い共謀罪とは異なり、コンピュータウイルスに関する改正案については、特に異論が唱えられているという話も聞かず、問題があれば再改正を検討すれば良いと思われますから、共謀罪とは切り離して早急に改正を実現する、ということを、法務省は真剣に検討、実行すべきでしょう。