元長官が朝鮮総連と二重契約、回収機構への対策か

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070705i501.htm?from=main5

緒方容疑者らは4月中旬、朝鮮総連から中央本部の土地・建物の購入を持ち掛けられ、5月31日、緒方容疑者が代表取締役を務める「ハーベスト投資顧問」が35億円で購入する契約を結んだ。この契約では、朝鮮総連が毎年、家賃相当の3億5000万円を払って入居し続け、5年後に売却金額に3億5000万円を上乗せした38億5000万円で買い戻す特約が付いていた。
これとは別に、「家賃を払う必要はないが、1年後に土地・建物を明け渡す」との契約も交わしていた。
土屋弁護士は6月14日の記者会見で、売買契約の経緯を説明する中で、別の契約書について「建前の契約書で、向こうの都合で作成した。内容は矛盾するが、法律的に有効なのは5年後の買い戻しを認めたほうだ」と強調。さらに、「第三者に何らかの説明を求められた時に、見せるのではないか。どう使い分けるかは、わからない」と話していた。

一連の報道を見ていると、購入代金である35億円の出資が不確実で支払の意思・能力がないのにあるように装った、という詐欺事件という捉えられ方をされているようですが、上記のような「表」「裏」契約書が存在していた、ということになると、やはり、本質は、所有権移転登記を行って強制執行を回避することにあり、35億円支払の確実性、といったことに何ら重きは置かれていなかった(したがって、その点でだました、だまされたという関係は生じない)、という見方も十分成り立つ可能性があるように思います。元日弁連会長が、「どう使い分けるかは、わからない」などと言っていること自体が、あまりにも不自然、不合理でしょう。そういう不自然、不合理なことしか言えないところに、この事件の本質が存在する可能性を考えるべきです。
やったことの当否はともかく、所有権移転登記を行って強制執行を回避してしまえば、代金支払とか家賃の支払とかはうやむやになってもかまわず、当事者同士でそのことは了解済みだった、ということになれば、到底「詐欺」とは言えなくなります。朝鮮総連側としては、代金は支払われない、それに伴って家賃も支払わなくて良い、といった状態で推移すれば、仲介手数料等名目のの4億数千万円(報道によると)で、引き続き施設を利用し続けることができ、かなり大きなメリットがあったということになる、ということを(実際にそうかどうかは今後の解明に待つとして)見逃すべきではないと思います。契約書が、両方とも「建前」のものだった、という可能性も視野に入れる必要性を感じます(そうであれば、売買自体が仮装だった、という、当初の嫌疑に戻ることになりますが)。
東京地検特捜部は、朝鮮総連が、この「売買」の話をかなり広く打診して回っていた、ということを必死に裏付けようとしているようですが、そこが、「詐欺」というシナリオの重要なポイントであるということを、強く意識しているのでしょう。しかし、最初から、「強制執行妨害の片棒を担いでくれませんか」「売買を仮装するのを手伝ってくれませんか」などと言ってしまえば、話に乗る人は、まずいませんから、そういう話を広く打診して回っていたから、真に売買の意図があった、とはストレートに言えない可能性もあります。そういう話を広く打診したにもかかわらず、乗ってくる人はいなくて、乗ってきたのは、元長官らしかいなかった、ということ自体が、この「売買」の不自然さを裏付けてしまう可能性もあるでしょう。
元長官らは、強制執行妨害等ではない、ということを強調するあまり、売買自体の有効性を強く主張せざるを得ず、その結果、本来、重きを置かれていなかった代金支払の確実性、という点で、説明に窮してしまい、そこを「詐欺」と構成されて苦しい状態に追い込まれつつあるのかもしれない、という印象を受けますが、そもそも、この事件の本質は何か、ということを考えてみないと、犯罪としての正しい評価はできないと思います。
一連の「取引」の真の目的、「回収機構への対策」を言うのであれば、それによって最も利益を受けるのは誰だったか、ということをよく考えてみる必要があるでしょう。