取り調べ記録したDVD、法廷で再生…保険金殺人公判

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070525i313.htm

公判に証人出廷したが、事件への関与について証言を拒絶したため、検察側が証拠申請していた。

法廷には、約2メートル四方のスクリーンが設置され、約10分間の映像が再生された。

やや専門的な話になりますが、この証人について、検察官面前調書(検察官への供述を録取した書面)があって、上記のような経緯があったため、その調書が取り調べ請求され、証拠能力の要件の1つである「特信性」立証のため、上記のDVDが取り調べられたものと思われます。
この場合の特信性は、いわゆる相対的なもので足り、「公判における証言状況と比較し、検察官の取り調べのほうが信用できる状況にあった」というもので足ります。「絶対的に」信用できるものでなくても良いわけです(あくまで証拠能力、すなわち、証拠として許容されるかどうかを決める局面なので)。換言すれば、メインは供述調書であり、DVDは、あくまで供述調書の信用性を判断する一資料ということになります。
しかし、供述の「絶対的な」信用性(その前提としての任意性を含め)を綿密に判断するためには、上記のような、わずか約10分間程度のものでは、あまりにも不十分でしょう。紆余曲折を経た後の、最終段階で、それまでの供述を「おさらい」するような形で供述が録画・録音されても、紆余曲折部分が明らかにされないと、供述の任意性や信用性を正確に判断することは極めて困難です。
今回のDVD取調請求は、これがなくても特信性立証はできるのではないか、と思われますが、検察庁としては、敢えてこの時点でこういうものを持ち出すことで、世間の反応を見て、今後の参考にしようとしているのかもしれません。
検察庁としては、供述調書に加え、検察庁における、「おさらい」映像を残しておくことで(「映像」のアピール効果もあり)、裁判員に対しても供述の任意性、信用性を強く印象づけたい、それで可視化の流れをそれ以上進まないように食い止めたい、と、虫の良いことを考えているのかもしれませんが、そうは問屋が卸さない、ということではないかと思います。おそらく、特に事実認定が微妙な事件では、裁判員も、取り調べの全過程を知らなければ供述の任意性、信用性は的確に判断できない、と考え、全過程がビジュアルに立証できなければ、供述調書自体の任意性や信用性について否定方向に見る、という可能性が高いと思います。