<ネット掲示板>中傷書き込み放置の管理人を書類送検 大阪

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070427-00000053-mai-soci

府警によると、中傷が書き込まれたのは「学校裏サイト」などと呼ばれる掲示板。昨年8月20日ごろ、大阪市内の私立中学校に関する話題を在校生らが自由に書き込む欄に、当時1年生の女子生徒について「うざい」「ブス」などと中傷する内容が書き込まれた。同10月中旬、友人から知らされて女子生徒が気付き、母親が掲示板のプロバイダーにメールで削除を要請したが、プロバイダーは「掲示板の管理人に言ってほしい」と回答。改めて管理人にメールなどで要求したが、応じてもらえず府警に相談した。府警のサイバー捜査担当者が、書き込んだ女子生徒と管理人の男を割り出した。

この問題については、以前、

インターネット上の誹謗中傷と責任

インターネット上の誹謗中傷と責任

で、私なりの考え方を述べたことがあり、また、東京大学山口厚先生や奥村弁護士と座談会を行い、それについても上記の本に掲載されています。興味のある方は読んでみてください。
なぜ、私が検察庁を辞めた後、ヤフー株式会社法務部に入り、先月末で退職するまで6年7か月にわたり在籍していたか、と言えば、こういった問題に対して適切に対処するため、ということが最も大きかったと言っても過言ではないでしょう。
詳細は言えませんが、過去にも、複数回、この種の問題について、ヤフー株式会社関係者の刑事責任が追及されようとしたことはあり(適切に対応しいずれも不発に終わっていますが)、今後も、そういった動きがなくなることはないと思います。
上記のような経緯を見ていて、よくわからないのは、「管理人」が送検され、「プロバイダ」は送検されていないようである、ということです。物理的な意味での問題情報の管理、という意味では、両者に差異はないと思われますが、敢えてプロバイダまでは送検していないということについて、警察が何らかの理屈を考えたのであれば、それが何かについて興味を感じます。
過去に、オークションサイトの運営者(ヤフーオークションのような巨大なものではなく、もっと小さなサイト)の運営者が、出品された物について、刑事責任を追及され、逮捕、勾留された、という事件がありましたが、それは不起訴に終わったと聞いています(嫌疑不十分なのか、起訴猶予なのかまではわかりません)。
既に何年も前から、プロバイダや同種の立場にある人、組織は、上記のような「幇助責任」を問われかねない脅威の下に置かれていて、だからこそ、私自身は、刑事責任発生の範囲を合理的な範囲内で明確に限定する必要性を感じて、例えば名誉毀損であれば、犯罪の成立が客観的に明らかであり、かつ、故意についても未必の故意ではなく確定的故意を要すると解してはどうか、などと言ってきています。
ウイニーの事件の関係でも繰り返し指摘してきましたが、刑事責任の追及、ということについては、その性質上、謙抑的である必要がある上、人の自由を保障、確保するためには、どこまでが適法でどこからが違法なのか、ということを予め明示しておく必要があります。特に、極めて多数の人々が利用するインターネットにおいては、その必要性は高いでしょう。インターネット掲示板の運営、といったことは、ごく普通の人が、日常生活の中で簡単に行う可能性があることで、ブログのコメント欄も一種の掲示板であって、かく言う私も、いつ名誉毀損等の幇助責任を問われかねない、極めて不安定かつ危うい立場に立っている、ということになります(ただ、私の場合はそれなりの専門知識はあるので、そういった事態にならないように回避する術も心得てはいますが)。
上記の記事にある事件について、どのような刑事処分になるかはよくわかりませんが、現状では、この問題について明確な指針といったものはなく、当面、関係者は、不安定な立場に置かれ刑事責任追及のリスクを常に感じつつ過ごすしかない、ということになりそうです。それが、インターネットにおける健全化よりも、むしろ、得体の知れない恐怖感や萎縮へとつながる危険性を、我々は深刻に受け止める必要があるのではないかと思います。