ロンドンにおける見学(1日目・午前)

1日目(月曜日)。午前中は、ロンドン市内にあるICPS(刑務所研究のための国際センター)を訪問し、担当者からいろいろとお話を聞きました。ICPSや、その活動等については、海渡先生が過去に書かれた

http://www.jca.apc.org/cpr/nl27/rj.html
http://www.jca.apc.org/cpr/nl27/kyodo.html

が参考になります。
主に説明していただいた担当者は、刑務所長の経歴を持ち、その後、転身して現在はICPSの活動に携わっている、という方とのことで、説明には非常に具体的でわかりやすいものがありました。
英国の現状等については(通訳を介しているので不正確な部分もあるかもしれませんが)、

刑務所における過剰収容が問題になっている。刑務所は増設されているが、追いつかない状態である。刑務所の増設には限界がある。従来の犯罪概念が、「反社会的行動」にも拡張されていることも原因と考えられる。日常生活の中での様々な迷惑行為に対し、住民等の申立を受けた裁判官がASBO(Anti-Social Behaviour Order、「アズボ」)を出し、それ自体は刑事処分ではないものの、命令に違反した場合は最高で5年の体刑が科される仕組みになっていて、刑事処分の対象が拡大するに至っている。また、こういった現象の背景には、「犯罪」に対して強い姿勢で取り組み支持を得たいという政治家の思惑もあり、過去10年間で700以上の新しい犯罪構成要件が作り出されている。近時は、前科がない初犯者でも体刑になる例が増えている(以前はもっと軽い刑になったようなものでも)。また、体刑の刑期も、以前よりは長期化している傾向が見られる。刑務所に収容される人が増えれば社会が安全になるわけではない。
「刑務所に代替する処遇」という発想は、「刑務所に加えた処遇」という状況に陥ってしまう恐れがある。服役以外の処遇をまず考え、他に手段がない場合に服役させる、「最後の砦が刑務所である」という考え方に立つべきである。例えばフィンランドでは、刑罰の宣告に際し、罰金か体刑か、が問題になり、8か月以下の刑であれば、自動的に社会内処遇が選択されるものとされている。それを超えても、2年以下の刑であれば、被告人の同意の下で社会内処遇が選択でき、社会内処遇になる場合が多い。フィンランドでは、英国よりも刑期が短くなっている傾向があり、体刑になる率もより低く、成功例と言える。フィンランドでは、1960年代ころまでは犯罪率が高かったが、対策を講じ、改善策が功を奏した。このような制度の仕組みについては、一般の人々の納得を得る必要があるが、フィンランドでは制度や運営について一般人も加わる仕組みになっていて、日本の今後を考える上で参考になる。
社会内処遇には、犯罪者の改善・更生へ向けたトレーニングを行うというものと、地域のためになる作業を行う、というものの、2つのものがある。社会内処遇の際、電子監視装置を使うことには十分注意すべきで、「技術的解決」が「人的問題の解決」につながらないことを銘記すべきである。例えば、電子監視により違反行為が発覚しても、通報した先の保護観察所が動かなければ実効性がない。フィンランドでも、被告人の同意の下に、電子監視下で自宅拘禁を行う制度があるが、子供が自宅のすぐ外で遊ぶのに、親が外に出られず、非常に困った、といった例も報告されている。

といったお話でした。お話の中で、英国のロード・チーフ・ジャスティスが、身分を隠し、1日、コミュニティ・サービス(社会奉仕作業)に加わったと報道されたことが紹介されていましたが、ボツネタで、

http://www.thisislondon.co.uk/news/article-23370031-details/Top%20judge%20calls%20for%20fewer%20jail%20sentences/article.do

が、正に紹介されていて、さすボツネタは目のつけ所が優れていると感心しました。
過剰収容問題や、社会内処遇の問題を考えて行く上で、大変参考になる説明を聞くことができたと感じました。