同一自動車内における覚せい剤の所持の罪ととび口の隠し携帯の罪とが併合罪の関係にあるとされた事例(覚せい剤取締法違反、最決平成15年11月4日、上告棄却、判例時報1848号154頁)

判例時報判例評論567号に出ていたので、読んでみました。
被告人が、車両内で、助手席足元に護身用のとび口を置き、セカンドバッグ内に覚せい剤を入れて所持していた、という事案で、1審では、観念的競合の関係にあるとして、覚せい剤取締法違反につき免訴になりましたが、控訴審、上告審では併合罪という判断になった、というものです。
実務的には、家屋の中とか車両内で複数の法禁物を所持、携帯していた発覚した場合、一罪と見て起訴するのが通常ではないかと思います。ただ、常に一罪というわけでもなく、対象物が異質だったり(本件のように)、所持、携帯の態様が異なっている、といった場合は、著名な最高裁判例最大判昭和49年5月29日)が言うところの「一個の行為とは、法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価をうける場合をいうと解すべきである」という基準に照らしても、一個の行為とは認められない、ということもあり得るでしょう。
私が、判例評論に出ていた事案を見ていて、改めて気になったのは、本件で、被告人のとび口携帯と覚せい剤所持が発覚した後、被告人が、とび口携帯について、先に軽犯罪法違反で略式命令(科料9000円)が出て確定し、その間に覚せい剤所持により通常逮捕され、略式命令確定後に起訴された、という経緯です。
覚せい剤が発見されている以上、覚せい剤取締法違反で起訴、有罪になれば、科料9000円の軽犯罪法違反事案を、罪数評価に微妙な点があるにもかかわらず、略式とはいえ、敢えて起訴する必要があるかどうか甚だ疑問であり(罪数評価に微妙な点があることも踏まえ、覚せい剤取締法違反で十分処罰できる事も考慮して起訴猶予、ということも考慮すべきでしょう)、上記のような経緯を見ていると、罪数に思いを致さず、送致されてきた事件を、漫然と右から左に処理していたようにしか見えません。
検察実務では、罪数については、裁判所や奥村弁護士ほどは考えない面があり、「迷ったら併合罪」という側面が強いと思いますが、この事案のように、安易な処理が深刻な結果を招く場合もあり(破棄されたとはいえ1審では免訴になっています)、その意味でも、注意を要することを改めて認識させられる判例と言えると思います。
弁護人としても、こういう場合がありますから、前科関係には注意深く目を向ける必要があります。