保釈と証拠への同意

刑事事件で、第1回公判前に保釈が問題になった場合、まだ証拠調べが未了ですから、一般論としては客観的な意味での罪証隠滅の余地が(事件にもよりますが)、証拠調べが進んだ場合に比べてそれなりに認められる、ということになりやすいでしょう。もちろん、罪証隠滅の恐れについては、それだけで決まるものではありませんが、担当裁判官が、保釈の可否について微妙であると考えるような案件で、公判での認否予定や証拠への同意・不同意の予定が、担当裁判官と弁護人の間で話題になる場面は、当然出てきます。
ただ、ここで、仮に弁護人が「事実は認めます。証拠にも全部同意します。」と断言したとしても、その後の公判で言った通りにする義務(道義上はともかく法律上の)はありませんし、そういった弁護人の言動により保釈の可否が分かれる、ということは、普通はないのではないかと思います。
私が検事をやっていた時には、弁護人から、「公判では事実を認めるし、証拠には全部同意するので、保釈には反対しないでほしい。」といった依頼を受けることは何度もありましたが、信用しないというわけではないものの、そう言われても、実効性の点でどうしても限界はありますから、認めるから、同意するから保釈には反対しない、という姿勢はとれなかった記憶があります。どうしても、証拠関係全体や従前の被告人の供述経緯等を総合的に見て、検察官としての意見を述べていましたし、おそらく、担当裁判官も、同様の視点で保釈の可否を判断している、というのが通常ではないかと思います。
この辺の事情は、教科書等には書かれておらず、また、刑事事件を取り扱う機会が少ない方々には、今ひとつ見えない部分で、わかりにくいのはやむをえないのではないか、というのが、私の率直な感想です。