特捜部の取調べと公安部の取調べ

ライブドア事件で、関係者に対する取調べの状況が何かと話題になっていますが、私の場合、一時期、特捜部と公安部を行ったり来たりしながら、被疑者の取調べを行っていたことがあり、両者の違いを感じることがありましたから、その点について、若干述べておきます。
特捜部が取り調べる被疑者で、「完全黙秘」(いわゆる「完黙」)という人は、まずいないと言ってよいでしょう。社会的地位があり、いろいろと経済活動を行っている人が多く、「反権力」だったり、革命を含む社会変革を目指している、といった場合は、まずありませんし、否認するにしても自分の言い分は言い分として述べたい、という場合も多く、事件自体も知能犯で取調べ事項も多いことから、かなり突っ込んだ取調べが行われ、否認供述に対しては厳しい追及も行われることになります。
それに対し、公安部が取り調べる被疑者は、対照的に、反権力の立場に身を置き、革命を含む社会変革を目指している場合がほとんどで、「完全黙秘」という状態を貫く、あるいは貫こうとする、という場合が非常に多いのが特徴でしょう。特捜部の事件が、検察庁による独自捜査だったり、他の機関と連携していても取調べは専ら検察庁において行うのが通常であるのに対し、公安事件では、警察捜査のウェイトが高くなりますから、取調べについても、警察と検察庁の双方で行う、というのが通常です。
公安事件では、特捜事件とは異なり、上記のような特徴もあって、具体的、詳細な供述がなければ公判が維持できないような事件は立件がそもそも困難であって、建造物侵入、業務妨害、傷害・暴行、といった、被疑者の供述が得られなくても目撃供述等で立証可能な事件が立件されやすい傾向があると言えるでしょう。
このような公安事件では、そもそも被疑者の供述が全然得られないか、得られてもほんのわずか、という場合が圧倒的になりますから、取調べも、質問しそれに答える、というやりとり以前の問題として、とにかく何らかの供述を得る、すこしでもしゃべるようにし向ける、といったことに取調官の関心が向けられることが多くなりがちです。そもそも、完全黙秘とかそれに近い供述態度をとる理由が、その被疑者の主義主張や所属する組織の方針に基づく場合が通常なので、取調べの中で、そういった主義主張や組織関係に疑問を持たせようとする働きかけが行われやすく、取調べの在り方として問題が生じやすい要素を常に持っている、ということも言えるでしょう。
ライブドア事件の堀江氏の場合、あくまで推測ですが、上記の特捜部型の取調べ、供述が行われているものと思われ、作成されている供述調書が少ないとしても、取調官からの厳しい追及、それに対する堀江氏なりの主張、反論の展開が行われているものと私は見ています。