東京地方検察庁特別捜査部(前)

以前、本ブログで、

「特捜検事の条件」
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041224#1103892957

というエントリーを作成したことがありますが、今回のライブドア・スキャンダル関係で、東京地検特捜部について聞かれる機会が増えているので、若干、触れておきます。
東京地方検察庁の中で、捜査を担当する部としては、特捜部以外に、刑事部(一般刑事事件を担当)、交通部(交通事件を担当)、公安部(公安事件と一部の刑事事件を担当)があります。
特捜部が担当する事件は、
1 特殊知能犯(贈収賄証券取引法違反事件、横領・背任など)
2 脱税事件(国税局から告発を受けるもの)
3 直告事件(検察庁が直接、告訴、告発を受けて捜査する事件)
に大別されます。
特捜部の中で、上記のような分担に基づき、いくつかの班が設けられており、それぞれの班に、担当の副部長がいて、全体を統括するのが特捜部長ということになります。
現在の特捜部所属の検事の人数は、正確にはわかりませんが、40名から50名程度ではないかと思われます。他に、副検事検察事務官も所属しており、捜索・差押の際に、建物へ入っていったりする姿が撮影されているのは、ほとんどが検察事務官です(検事も同行している場合があります)。
大規模な事件で、特捜部所属の検事等だけでは人手が足りない場合は、東京地検内の他の部や他の地検から応援検事、事務官を受け入れて捜査する場合もあり、今回のライブドアの件でも、報道によれば、応援検事等が投入されているようです。
東京地検特捜部の最大のターゲットは、端的に言って、「政界」と言っても過言ではないでしょう。終戦後、間もなく、東京地検特捜部の前身である隠退物資を捜査するセクションが東京地検内にできた当時から、現在に至るまで、東京地検特捜部の歴史は、政治腐敗との闘いであったと言っても過言ではありません。ロッキード事件リクルート事件など、東京地検特捜部の捜査により、時には内閣が倒壊したという例もあり、東京地検特捜部による政界捜査は、常に注目を浴びてきました。
しかし、東京地検特捜部の捜査対象は、もちろん、政界だけではなく、今回のライブドア・スキャンダルのような証券取引法違反事件など、知能犯全般に幅広く及びます。
東京地検特捜部の捜査は、基本的に特捜部独自で行われますが、脱税事件の場合は国税当局、今回のような証券取引法違反事件の場合は証券取引等監視委員会独占禁止法違反事件の場合は公正取引委員会、といったように、関係諸機関と緊密な協力、連携を行いつつ進められます。事件によっては、警察の捜査2課(知能犯担当)や生活経済課(最近は生活安全関係の知能犯を取り扱う場合が増えている)とも協力、連携しつつ捜査を進める場合もあります。
東京地検特捜部所属の検事、副検事検察事務官が、検察庁内部でも選りすぐられた優秀な人材であることは、今さら言うまでもありませんが、その強力な捜査力を支えているのは、そういった点だけでなく、その「情報力」にあると言えると思います。
上記の通り、東京地検特捜部は、関係諸機関と緊密な協力、連携関係にあり、特に、国税当局との関係があることにより、日本全国のあらゆる「金の流れ」に関する情報を、必要に応じ、法令に基づく手続を経て、入手できる立場にあります(「金の流れ」について、痕跡をまったく残すことなく犯罪行為を行うこと自体、極めて困難であることは容易に理解できるでしょう)。
また、東京地検特捜部のような極めて強力な捜査機関には、「こういった情報がある」「この事件を是非やってほしい」といった、あらゆる情報が、日々、持ち込まれます(そういった情報の窓口になっているのが直告事件担当です)。
東京地検特捜部では、上記のように、日々集積する情報、行っている捜査の中で収集する情報を常に分析し、必要に応じ共有化して、新たな犯罪摘発へと結び付けているというのが実状です。
このような東京地検特捜部の捜査活動の中で、今回のライブドア・スキャンダルについても、おそらく地道な内偵が続けられ、電撃的な捜索・差押、そして、堀江氏らの逮捕に至った、ということになると思います。
ただ、東京地検特捜部の捜査にも、問題がないわけではありません。どのような問題があるかは、別のエントリーで指摘してみたいと考えています。

(続く)