捜査において「陰謀」はあるか?

ライブドア・スキャンダルについて、「はめられたのではないか?」という見方が、根強くあるようです。
一般的に、捜査の中で、捜査機関側における思惑のある動きというものがあるとすれば、
1 捜査の端緒の段階で、「捜査機関にこの事件をやってもらって、是非ともこの人間、組織を葬ってほしい」といった思惑で情報が持ち込まれ(持ち込みネタ)、それに呼応して動く
2 捜査機関が、以前から特定の人や組織に苦杯をなめさせられていて、是非ともその人や組織に打撃を与えたいと、虎視眈々と狙って動く
3 「上のほう」から、「この事件をやれ」と命じられて動く
といったことが考えられると思います。
私の経験に照らすと、特に証拠関係が複雑な経済事件では、証拠を偽造、捏造する、証拠の評価をねじまげるなどして事件自体をでっちあげる、といったレベルでの「はめる」ということは、そもそも不可能だと思いますし、もし、そんなことをやっても、とても公判が維持できないでしょう。
上記の1から3までの可能性のうち、3は、最近、「国策捜査」などと言われる事件に典型的に見られるものです。ただ、ライブドアの場合、報道を見る限り、自民党との関係はそれほど悪くなく、今回の強制捜査までは、世間から叩きまくられていたわけでもないので、それはないだろう、と思います。
1については、証券取引等監視委員会の内偵の切っ掛けやその後の内偵を支えてきたものが、反ライブドア勢力、元ライブドア社員等々からの情報提供であった、という可能性は、かなりあるのではないかと思います。その辺の情報が、万が一、ねじまげられたもので、間違っていれば、東京地検特捜部も含め、それに乗せられて間違った動きをしている、という可能性もゼロとは言えません。ただ、特に東京地検特捜部の捜査水準は、世界最高峰と言っても過言ではなく、供述については徹底的に裏付けを取って検証する作業を丹念に行うので、これだけの大きな動きに至っているということは、そういった作業の結果、今までに収集した証拠に基づく事件の「見立て」に強い自信を持っていると見るのが自然でしょう。
2については、あるともないとも言えませんが、過去に捜査機関がライブドア関係で内偵に入っていて、関係者の口裏合わせなどでモノにならなかった、といったことがあったとすれば、「今度こそは」と意気込み虎視眈々と狙いつつ内偵を進めてきた、といった可能性はあると思います。
結局、動機や経緯に不純なものが含まれていたとしても、立件し起訴する、という段階にまで至れば、公判を維持し有罪判決を獲得できるか、という観点から厳密な証拠評価を行わざるを得ないので、その段階で、「はめる」「陥れる」といった要素を含めるということは、まず不可能というのが、日本の捜査(特に経済事件の捜査)の実態ではないかと思います。