「構造計算書偽造」事件の擬律

世間を騒然とさせている上記事件ですが、単なる形式犯お茶を濁すべきではない、という論調が多いようですね。
私が推奨するのは、刑法上の背任罪です。

(背任)
第247条
他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

問題の1級建築士は、「他人のためにその事務を処理する者」に該当するでしょう。報道によれば、金銭の受け取り等もあったとのことですが、何らかの「自己若しくは第三者の利益を図る目的」も認定しやすいのではないかと思います(逆に、そういった目的が何もないのに、このようなことはしないでしょう)。現状では、正に「本人に損害」が生じつつありますが、この点について、未必的な目的でも足りると解すれば、そういった目的も併せて認定される可能性もあります。
この場合の「本人」は、問題の1級建築士に構造計算を依頼した者、ということになるでしょう。
本来、適正に行うべき構造計算について、デタラメなことしかしていない以上、「任務に背く行為」があったと言えるでしょう。この点について、財産上の行為に限るという考え方もあるようですが、そこまで狭く考える必要もないと思います。
上記のような行為の結果、「本人」に、損害賠償義務など、多大な財産上の損害が発生しつつありますから、最後の「財産上の損害」も容易に認定できそうです。
なお、殺人未遂罪の適用という考え方も一部で提唱されていますが、行為の危険性を考えると、単なる「ネタ」にとどまらず、十分あり得る考え方だと思います。ただ、故意(殺意)の認定が、やや難しそうです。