著作権侵害差止等請求控訴事件(読売新聞東京本社対デジタルアライアンス)

http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/View11?OpenView

の中の「H17.10. 6 知財高裁 平成17(ネ)10049 著作権 民事訴訟事件」

参照:

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20051007#1128614041

判決文を一通り読んでみて、気付いた点を何点かあげておきます。

1 著作物性

判決では、

一般に,ニュース報道における記事見出しは,報道対象となる出来事等の内容を簡潔な表現で正確に読者に伝えるという性質から導かれる制約があるほか,使用し得る字数にもおのずと限界があることなどにも起因して,表現の選択の幅は広いとはいい難く,創作性を発揮する余地が比較的少ないことは否定し難いところであり,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられる。
しかし,ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,結局は,各記事見出しの表現を個別具体的に検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものである。

とした上で、問題となった見出しを具体的に検討して、すべてについて著作物性を否定しています。
上記の、「ニュース報道における記事見出しであるからといって,直ちにすべてが著作権法10条2項に該当して著作物性が否定されるものと即断すべきものではなく,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのであって,」という部分を、ことさら強調しようという動きが一部にあるようですが、判決では、その前の部分で、「著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではない」と釘を刺している上、具体的な検討の結果、問題の見出しについて、ことごとく著作物性を否定しており、この種の見出しについて著作物性が認められる可能性は、ゼロではないものの限りなくゼロに近いほど低い、ということは言えるでしょう。
わかりやすく言えば、例えば裁判所が、何かの事件で、「落合弁護士の能力が低いからと言って、弁護士である以上、直ちに最高裁判事になる可能性が否定されるものと即断すべきものではなく、今後の活動いかんでは、最高裁判事就任の余地もないではないのであって」と言った場合に、「落合弁護士が最高裁判事になる可能性があることを裁判所が認めた」などと大々的に吹聴してまわるのが馬鹿げているのと同じくらい、この判決を見て、「裁判所が見出しの著作権性が肯定される余地があることを認めた」と大々的に吹聴してまわるのは馬鹿げていると言えるでしょう。

2 不法行為

判決では、

不法行為民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。
インターネットにおいては,大量の情報が高速度で伝達され,これにアクセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし,価値のある情報は,何らの労力を要することなく当然のようにインターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであって,情報を収集・処理し,これをインターネット上に開示する者がいるからこそ,インターネット上に大量の情報が存在し得るのである。そして,ニュース報道における情報は,控訴人ら報道機関による多大の労力,費用をかけた取材,原稿作成,編集,見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ,インターネット上の有用な情報となり得るものである。
そこで,検討するに,前認定の事実,とりわけ,本件YOL見出しは,控訴人の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。一方,前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。

と判断しています。
やはり、裁判所は、上記の通り、

控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって

と、営利性、反復継続性、時期(「情報の鮮度が高い時期」)といった諸点を重視した上で、違法性を認定しており、これらの事情が認められない、あるいは、認められてもその程度が本件ほどではない場合には、むしろ違法性が認定されない可能性が高いという見方も十分成り立つと考えられます。
非営利のホームページ、ブログ等で見出しを紹介するような行為は、完全にこの判決の射程外と言えるでしょう。

3 損害の認定

この点にも、なかなか興味深いものがあります。
判決では、

上記ホットリンクとの契約においては,65個(乙30の1〜6によれば,これより多い可能性もあるが,被控訴人が自己に不利な65個であることを自認していることなどを考慮し,その限度で認定する。)のYOL見出しが表示されるようにプログラムされていることが認められる(乙24,30の1〜6)。これによれば,実質的には,1日当たり65個のYOL見出しの提供について月額10万円の契約がされているものということができる。そうすると,被控訴人が主張するように,前記のとおり,被控訴人がYOL見出しを無断で使用した個数は,一日当たり7個(前記のとおり1日平均6.0個であるが,被控訴人が自ら一日当たり7個であることを自認した上,これを前提に議論をしていることなどを考慮し,7個とする。)であるから,その割合で計算すると,月額は,1万0769円(10万円÷65×7)となる(もっとも,契約の実態として使用した実数を基礎に支払うべき使用料が約定されることが通例であるとは思われないが,ないとも思われない。)。そして,前判示のとおり,平成14年10月8日から同年12月7日までの間については,被控訴人の具体的行為が主張立証されているものの,それ以降平成16年9月30日までの間については,抽象的な主張にとどまっている。しかし,前掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,その後も前判示同様の違法行為が継続していたものと容易に推認することができる(被控訴人も外形的な行為が継続していたこと自体は積極的に争う趣旨ではない。)。そうすると,控訴人主張の上記契約実例を前提に使用した実数に基づいて計算すると,平成14年10月8日から平成16年9月30日までの23か月24日間の使用料相当損害額は,25万6024円(1万0769円×(23+24/31))であるということになる。

とされ、極めて低額の損害が認定されており、その一方で、

上記損害額をもって直ちに控訴人に生じた損害であると速断することはできない。

控訴人には実損害が生じているわけではないともいえなくもない。

とも指摘されており、結局、

他人の形成した情報について,契約締結をして約定の使用料を支払ってこれを営業に使用する者があるのを後目に,契約締結をしないでそれゆえ無償でこれを自己の営業に使用する者を,当該他人に実損害が生じていないものとして,何らの費用負担なくして容認することは,侵害行為を助長する結果になり,社会的な相当性を欠くといわざるを得ない。

という判断に基づいて、上記損害が認定されていることがわかります。この点は、町村教授が

http://matimura.cocolog-nifty.com/matimulog/2005/10/arret_7aa1.html

で「ノミナル賠償」と指摘されている通りでしょう。

4 その他

不正競争防止法に関する読売側の主張が、簡単に一蹴されている(そもそも、なぜこのような主張をしたのか理解不能)ほか、

控訴人は,無形的損害として1000万円を主張するが,本件全証拠によっても,被控訴人の前記行為に起因して,控訴人の社会的信用及び信頼並びに報道機関としての公平性,中立性に関する評価などが毀損されたことを認めるには足りない。よって,控訴人の無形的損害の請求は理由がない。

弁護士費用については,上記(a)の認定額が控訴人の当初の請求額や減縮後の請求額(いずれも差止請求部分を含む。)に照らし,著しく僅少である上,被控訴人も控訴人の請求額に対応しないまでもある程度の弁護士費用の負担を余儀なくされていることが容易に想像され,しかも,控訴人が当裁判所が判断したような相当額の支払いを求めて適切な事前交渉をしているとは認められない本訴においては,被控訴人に控訴人が要した弁護士費用を負担させるのは相当ではない。

と、損害に関する読売側の主張が排斥されているのが印象的です。印紙代がもったいなかったですね。
訴訟費用について、「勝訴」したはずの読売側が1万分の9995という、敗訴したと見間違うほどの負担が命じられていることについて、

訴訟費用の負担については,本訴の訴額が差止請求部分と損害賠償請求部分を合算すると,4億円を超えるものであるのに,認容額は損害賠償のごく一部にすぎず,しかも,本訴における主張立証の大半は,著作権に基づく請求について行われ,この点について控訴人は敗訴しているほか,被控訴人は遠隔地からの応訴であること,控訴人が適切な事前交渉の措置を講じなかったこと,和解勧試における状況によれば,被控訴人は相当額の金銭の支払いを検討する用意があるとの意向を示唆していたことなどを考慮すると,訴訟費用の負担のうち,訴えの提起及び控訴の提起の申立て手数料の1万分の5を被控訴人の負担とし,その余の訴訟費用をすべて控訴人の負担とするのが相当である。

とされており、著作権の主張について「控訴人は敗訴している」と、わざわざ指摘の上、「控訴人が適切な事前交渉の措置を講じなかった」、「和解勧試における状況によれば,被控訴人は相当額の金銭の支払いを検討する用意があるとの意向を示唆していた」などと、裁判所が陰に陽に読売側を批判するかのような口ぶりを示しているのも印象的です。

5 判決に対する評価

単純には論じにくいものがありますが、読後感としては、

「ネット記事の見出し無断配信「違法」…初の司法判断」
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051006i116.htm

の、

ネット上での見出しの無断使用を違法とした初の判決で、ニュース配信を巡るルールに影響を与えそうだ。

読売新聞東京本社広報部の話「記事見出しの無断使用は違法となることを認めた初の司法判断で、インターネット上のニュース配信の指針となる意義の大きい判決と考えます」

という評価には違和感を感じ、にわかには賛同しかねます。
むしろ、この種の行為が著作権侵害になることがほぼあり得ないことが確認された上、フリーライド(ただ乗り)として不法行為になる場合もかなり狭い範囲内でしかなく、しかも、認定される損害も名目的な、極めて僅少なものでしかないことが司法判断によって明らかとなり、読売のような立場上、逆に「自縄自縛」状態に陥ってしまったという見方も成り立ち得るのではないかと思いました。
あくまで「感想」にとどまりますが。