「P2Pコミュニケーションの可能性と法的課題」について(その2)

第2部 P2Pとコンテンツ産業
第1 P2Pコミュニケーションの可能性と法的課題
(上村圭介 国際大学グローバル・コミュニケーションセンター講師)
1 P2Pとファイル交換・共有
 両者はイコールではない。
①P2P
 間にサーバなどを介さず、直接通信を行う
 サーバに蓄積されることがないのでリアルタイムな情報やコンテンツが入手できる
 ファイルの送り手と受け手が「クライアント」と「サーバ」の機能を備えた共通のソフ
トウェアを使用する
②ファイル交換
 ファイル名やキーワードで探したファイルを入手する
 ファイルの持ち主が誰かは問わない
2 P2Pの経緯・話題になったP2Pソフトウェア
 ナップスター以前
 ナップスターグヌーテラWinMXWinny
 グヌーテラ2、FastTrack(スカイプでも使用)
3 転送と検索という2つの軸から見たP2P
4 P2Pの動作の3類型のイメージ
① 仲介型(例としてナップスター)運営主体がサービスに付加価値を加えやすい。
② 伝言型(例としてグヌーテラ)  
③ 放流型(例としてWinny) アップロードとダウンロードの非同期化がポイント
5 P2Pはどう「進化」してきたか
① 管理のボトルネック解消
② 配信効率の向上 伝言型はどうしても配信や検索の効率が低下する
③ 「ただ乗り」への対策 
④ 匿名の強化 データの暗号化・キャッシュ化 送受信者の匿名化
⑤ P2Pのレベル どの「層」におけるP2Pか、データ転送の同期性、非同期性
5 これからのP2P

コンテンツホルダーと利用者の健全な関係の構築が必要ではないか」

第2 P2Pソフトの利用実態とコンテンツ関係者の見解
(戸叶司武郎 ヤマハ株式会社 法務・知的財産部著作権・商標グループ)
 ACCS、日本レコード協会の調査結果や日本レコード協会の活動紹介、関係者への直接インタビューの結果、公開情報から収集した情報を分析した。
1 P2Pソフト利用実態調査
 利用経験者推定は約240万人(前回は185万人)、アクティブユーザーは約95万人。
 男女比はほぼ半々、年代別は、30代、40代、20代の順。職業別では会社員と専業主婦が最多層。特に主婦(専業と兼業)は女性層の5割。回答者全体(約2万4000)のうち、ブロードバンド利用者は88パーセントを占めている。映像ファイルダウンロード数が増加傾向。ファイル交換されたファイルの9割は権利対象物。ジャンル別では映像、音楽、写真関連、ソフト、文書の順。
2 防止キャンペーン・活動等
日本レコード協会主催のキャンペーン
 Respect Our Music キャンペーン
 インスタントメッセージを利用(2004年11月までに400万通超を送付)
 プロバイダに対する発信者情報開示請求
3 関係者のコメント
① 著作権ホルダー
 現状のDRM無しP2Pファイル交換は、著作物利用の対応が正しくなされているとは考えにくく、権利者として許せるものではない
 P2P技術は分散処理というインターネットの基礎理念と符合する重要な技術であり、インフラ技術と流通の議論は分けて考えるべき。
 権利保護の仕組みを用意しなければ、管理責任が技術に及ぶこともあり得る。
 ファイル交換の問題は全世界の権利者の問題。
② コンテンツホルダー
 P2P技術そのものは悪いとは考えていない。
 P2PとDRMの組み合わせは有効と思われるが、検討中であり、具体例はまだない。
 P2Pが社会的に有意義になれば(利用を)認める。
③ コンテンツプロバイダ
 P2Pはインフラ技術の中の(選択肢の)一つ
 顧客獲得、サービス提供、課金徴収、ロイヤリティ処理までの一連の業務にどのような利点と欠点があるか?

第3 P2Pファイル交換に関する事件 
(小関知彦 凸版印刷株式会社 法務本部法務部部長) 

(個々の事件について概説した上で、まとめとして)
 仲介型P2Pサービスについては、サービス提供者の責任を認定。
 伝言型P2Pサービスについては、サービス提供者(ソフト配布者)の責任は認定されず。
 グロックスター事件(アメリカ連邦控訴裁でサービス提供者の責任を否定、最高裁係属中)、Winny事件(京都地裁)の結論が注目される。
 グロックスター事件では、「専ら違法に利用されている」かどうかがポイントになるかもしれない。
 ベータマックス事件の精神(違法行為の可能性により新技術を封殺すべきではない)をどのように考えるべきか。

第4 著作権の最適保護水準 P2Pファイル交換ソフトは被害を与えているか
(田中辰雄 慶應大学経済学部助教授)
 厳格な保護が最適というわけではない。著作権の保護には最適水準がある。
 調査したところ、売上が増えるとダウンロード数が増えるという関係は見出される。ダウンロード数が増えたら売上が減るという関係は検出されない。
 ファイル交換はオリジナルの売上を減らさない。なぜ?
① 需要が違う
 オリジナル(CD)を購入する人はコピーの有無にかかわらず購入する。
 ファイル交換でコピーを利用する人は、コピーが禁じられてもCDを購入するわけではない。
 一言で言えば「買うやつは買う。買わずにコピーするやつはどうせ買わない。」
② 宣伝(探索)効果、ネットワーク効果
 ファイル交換で試聴し(探索)、気に入ると購入する
 ファイル交換で流行の情報を入手し、それを購入する
証拠 中堅以下のアーティストの作品はファイル交換されると売上が増える(アメリカ)
証拠 インディーズ音楽「ファイル交換に流すとアクセスがぐっと増える」

 いずれにせよ、現状のファイル交換は経済厚生を高めていると結論せざるを得ない。
 売上が一定なら、保護を緩めたほうが良い。
「P2Pといかに向き合うか。」
 Winnyでのファイル交換はCD売上を減らしていない。したがって、経済厚生を高めていると結論せざるを得ない。
 政策上の合意:現状程度のファイル交換を抑制する必要はない。言い換えれば、現在の著作権保護は最適水準より過剰である。
 ビジネス上の合意:ファイル交換で違法コピーされることを恐れず、ネット配信に進むべきである。

第5 コンテンツ流通ビジネスへの積極的利用
(井藤好克 松下電器産業AVコア技術開発センター主任技師)
1 P2P技術のビジネス利用の考え方
コンテンツ流通ビジネスの成立要件
① 「情報伝達」 コンテンツをできるだけ多くの人に認知してもらうこと
 P2P技術の活用フィールド
② 「対価徴収」 コンテンツ試聴に対し、確実に対価を得ること
 デジタル著作権管理(DRM)技術の利用
 DRM技術との組み合わせで、新たなコンテンツ流通ビジネスを創出
2 デジタル著作権管理(DRM)技術
① 再生制御技術 不正利用を防止する技術群
② コンテンツ認証技術 コンテンツの利用状況を監視する技術
③ コンテンツ認証技術による不正監視
3 P2P技術のビジネス利用事例
 NetLeader(NTTコミュニケーションズ)
4 今後の課題と展望
① プライバシー
 DRM技術は利用者の個人情報を認証に使用
 ビジネス拡大には情報管理の更なる強化が必要
② DRM技術の乱立
 異なるDRM技術は、利用者間のコンテンツ交換やメディア返還の障壁
 DRM技術の互換性を目指す動き
③ ビジネス性
P2P技術は流通を効率化するが、コンテンツの消費量を飛躍的に増やすものではない
携帯電話へのP2P技術の採用
 常に持ち歩き他者との通信に用いる携帯電話へP2P技術を採用することで、ユーザ同士の「口コミ」による配信量の増加に期待

第6 P2Pの発展と法の枠組み
(石新智規 ジョーンズ・デイ法律事務所弁護士)
1 米国におけるP2P裁判例
2 著作権者の取りうる措置
DRMの法的保護
3 侵害幇助に対する規制の動き
 新規立法
① Piracy Deterrence and Education Act
 著作権侵害行為抑止のための教育プログラムの実施
 最高刑懲役5年
② Induce Act
 動きが止まっている
4 Alternative Compensation System
 DRMの限界
5 Levy Systemの構築及び問題点
6 将来の制度設計
 DRMと法の関係の検討
① DRM and  法
② DRM or  法
③ DRM vs.  法
 著作権の保護と文化・技術の発展の適正なバランスを考慮した現実的な制度設計が可能か
 著作権概念の変容を認めるか