刑事訴訟法の一部改正による実務への影響

今週木曜日に、都内某所で、既に成立している刑事訴訟法の一部改正について、研究者の方からのお話を聞く機会があった。
改正後の刑事訴訟法では、各種の新たな制度が導入されているし、主張や立証の在り方も相当変わることになるようであるが、その中でも私が注目したのが、公判前整理手続であった。
この制度は、裁判員制度対象事件では必ず行われ、それ以外では、裁判所が必要と認めたときに行われるが、そこで行うことができる事項は、単なる争点整理にとどまらず、証拠調べ請求、証拠決定、鑑定、証拠開示に関する裁定など多岐にわたっている。第1回公判期日前に、裁判所がここまで証拠に接するということになると、刑事訴訟法の基本理念である「予断排除の原則」との関係がやはり疑問になるし、旧刑事訴訟法まで存在した予審(裁判所が主宰する一種の捜査手続)とは目的が違うものの、運用如何によっては、新たな予審の出現ということになりかねない危険性を感じた。
また、危惧を感じたのは、公判前整理手続が行われた事件では、そこで証拠調べ請求していなかった証拠を後に請求することが原則としてできない(例外は「やむを得ない事由」がある場合)ということである。
検察官に比べて、被告人・弁護人側は、証拠収集力等で、圧倒的に不利な立場に置かれている。その中で、検察官の立証に致命的な打撃を与える証拠を発見することもある(「アリバイ」が典型例であるが、それにとどまらない)。従来は、弁護人立証まで、そういった証拠の存在は伏せておいて、検察官請求の証人が、検察ストーリーに調子を合わせたような証言をしても、させるだけさせておき、主張・立証を固定させておいた後に、上記の証拠で、築き上げられた「砂上の楼閣」を一気に根底から崩壊させる、ということが可能であった(実際は、なかなかそのようにうまくは行かないが)。
しかし、今後は、そういった手法が著しく困難になる。弁護士ペリー・メイスンも、こういった公判前整理手続には反対するかもしれないな、と話を聞きながら感じた。
私は、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041230#1104403499

私見では、最高裁法務省は、司法改革の流れの中で、刑事の1審は、一種の「国民のおもちゃ」として与えておいて、裁判員チョンボ(裁判所や検察庁から見て)等により是正すべきと考える判決などが出れば、控訴審(主として)、上告審で、職業裁判官の手により徹底的に是正させる、というスキームを狙っているのではないかと見ている。
今後も検察官控訴は制限されないようであるし、控訴審、上告審で、事実誤認とか量刑不当を理由に、裁判所が「間違っている」と思った判決は相当広範囲に破棄し、自判(1審に差し戻さず上訴審で判決を下してしうまうこと)もできるので、いくら、1審で裁判員が努力に努力を重ねて審理、判決に至っても、上訴審で、「こんな馬鹿げた判決はないだろう」と言われてしまえば、それでおしまいである。裁判員制度といっても、所詮、その程度のもので、仏様の手の平の上で遊んでいる孫悟空のような存在でしかないと言っても過言ではない。
一審でいくら頑張って無罪判決を得るような状況になっても、控訴審で次々と破棄されて有罪、といったことになれば(中には間違った無罪もあるとは思うが)、何のための司法改革か、ということになりかねないが、そういった一種の「悪夢」のようなことが起きる可能性は極めて高いと私は予想している。

という、うがった見方をしているので、その点について、講師の先生にうかがってみた。
講師の先生は、断定は避けつつも、「従来の検察官立証は、多岐にわたる証拠をこれでもか、これでもかと出すようなものだった。しかし、裁判員制度の下では、そういった立証は無理と思われるし、厳選し絞った証拠で立証ということになる。そういった立証の上で無罪という判断が下された場合に、厳選され絞られた証拠を高裁が見て、裁判員が加わった裁判体による無罪という判断を覆すということは難しい場合が多いのではないか。」という趣旨のことを述べられていた。
確かに、そういった立証の在り方による影響、ということも考えてみる必要があるので、非常に参考になるとともに、上記のような「うがった」見方については、引き続き検討してみようと思った。