「匿名性」に関する雑感

小倉先生のブログで、

http://blog.goo.ne.jp/hwj-ogura/e/f75ce25aaa6f963cf272117844acc0c6

といったことが取り上げられている。
匿名性に関する私の考え方は、既にこのブログでも何度か触れた。匿名性自体は尊重されるべきであるとは考えているが、その一方で、私自身、匿名性の怖さも骨身にしみてわかっており、「匿名で何をやってもよい」といった、極端な考え方は排除されるべきであると思うし、匿名で発言する自由、といったものは尊重しつつ、必要な場合は、ネット上の匿名による発言者とリアルな個人を、法的な意味でも厳格な手続の中でヒモ付けできる仕組み、というものが、今後は模索されるという流れになるのかな、と考えている。
それはそれとして、指摘しておきたいのが、現状の中で、匿名性の排除、ということが、いかに困難か、ということである。「はてな」の登録にしても、既に何度か指摘しているように、自己申告の上、ごく少数に対するランダムな郵送確認程度では、たいした効果は期待できないし、銀行口座やクレジットカードを利用した本人確認と言っても、仮名・借名の銀行口座が膨大に存在し、クレジットカードの不正利用等も多く、抜け穴はいくらでもある。そもそも、身分証明書と言っても、実在する他人名義で運転免許を取ったり、住民票を取得したり、といったことは、ちょっとしたノウハウなり、協力者なりがあれば、意外と簡単で、事件を通じて見ていると、本当にこんなに簡単に取れて良いのか、と呆れるほどである。
プリペイド携帯の問題ばかり取り上げられているが、あるPHSサービスを利用すると、匿名状態でインターネットは定額使い放題、無線LANも使い放題ということで、犯罪者はそのサービスを、一種の「使い捨て」状態で次々乗り換えながら逃げ回っているということが現実に起きている。運営体制がいい加減なインターネットカフェや漫画喫茶を渡り歩けば、悪いことのやりたい放題と言っても過言ではない。
上記のようなお寒い現状では、このサービスで「本人確認」といったことを実施しても、本当に悪い奴は、抜け穴から次々と逃げてしまうと思う。
こういった現状の中で、匿名性を制限すると、実際にどんなことが起きるかと言うと、普通の真面目な人ほど、例えば「はてな」が登録をはじめる、といったことを文字通り真面目に受け止め、登録やむなしと考える人は、それなりに真面目に応じるが、そういう人は、そもそも権利侵害とか誹謗中傷とか、そういった行為に及ぶことはあまりない。そして、真の意味で問題行動に及ぶ人間は、現状の本人確認制度の抜け穴を利用するだけ利用して、正に、「匿名性」を悪用して、違法不当な行為を続ける、ということが起きるのである。運営者も対策を講じるし、捜査機関もそれなりに動くが、現状では、問題となる行為はなくなることはないし、減少するどころか、むしろ増加する可能性も大きい。
インターネットのサービスというものは、日本人向けであっても、何も日本の国内にサーバーを置き、日本国内に拠点がないとできないわけではない。セキュリティの甘さを売り物にしようとする運営者であれば、国外でサービス提供体制を完結させ、逃げ回りながら、金儲けに走るはずであるし、実際、最近問題になっているフィッシング詐欺でも、そういうことが起きている(最近、私が接した案件でも、パスワード等の入力が求められたサイトのサーバーは、日本の捜査当局がすぐには捜査の対象にできそうにない、ある東欧の国にあった)。
匿名性を制限するということを、本気で実施するなら、生体認証でも導入しない限り、中途半端なものになってしまうし(そういった徹底した措置は実現困難であろう)、中途半端な匿名性の制限では、捜査機関の不当介入といった事態を回避することは、実際は困難であるというのが、この問題の奥に潜んでいる真の問題ではないかと感じているところである。