裁判例の読み方を完全に間違っている「はてな」

http://d.hatena.ne.jp/hatenadiary/20041103#1099458855

の、「ユーザー登録情報の利用目的、プライバシーポリシーについて」で、

この判断を行う際、「ファイルローグ」裁判*1の判決なども参考にしております。この判決では、サービス提供者が著作権侵害行為が想像できたにもかかわらず、利用者の確認を怠ったとされております。
残念ながら、はてな内でも著作権侵害情報など他人の権利を侵害する情報が増加しており、企業として、法律に基づき今後もサービスを提供し続けるには、ユーザーの皆さんに住所と正確な情報の登録をお願いするしかないと判断いたしました。

という一節がある。
こんなところで、ファイルローグ事件の裁判例が出てくるとは思っておらず、正直言って驚いたが、こういう間違った読み方をしている人もいることがわかったという意味では、参考になった面がある。
プロバイダ責任制限法に関して、総務省の立法担当者が執筆した解説書にも書いてあることだが、インターネット上における情報の流通も、広い意味での「通信」であり(不特定多数に向けられているという意味で「開かれた通信」「公然性のある通信」と呼ばれることもある)、通信事業者には、法令上の義務(通信の秘密を守る義務、検閲禁止など)が課せられている一方、そういった通信について一般的、網羅的に権利侵害等の有無を調査する義務はないということが、広く承認されている。もちろん、情報発信者の身元確認を行う義務もない。
プロバイダ責任制限法も、そういった前提で立法されており、プロバイダ等の法的責任が生じうるのは、違法情報を具体的に認識するか、具体的に認識できる状態になった後のことである。
ファイルローグ事件の裁判例(まだ高裁で審理中であり確定すらしていないが)については、小倉先生に解説していただくのが適切であり、私ごときが語るべきではないと思うが、「情報」に対する関わり方が、ファイルローグの運営者と、「はてな」のようなサイトの運営者では、全く異なっており、ファイルローグ事件の裁判例(一審判決に過ぎないが)から、一般的に、サイト運営者のような立場の者に違法情報流通阻止義務が生じたとか、情報発信者の身元確認義務が課せられた、などという理解は、少なくとも、まともな法律家はしていないし、そのような理解は、上記の裁判例の射程距離を完全に逸脱した誤解である。
はてな」が、ファイルローグ事件の裁判例をこのように曲解した上で、今回の措置を講じたということになると、他の多数のプロバイダ等に対しても「誤解」が広まる危険性が高く、極めて由々しき問題と言うべきであるし、法令や判例等を真面目に勉強しつつ利用者の表現の自由や各種権利の保護との狭間で日夜努力しているプロバイダ等の関係者に対して非礼とも言える。
誰から何を聞いて、このような誤解をしているかは不明であるが(こういうアドバイスをした弁護士がいるとすれば、よほど勉強していないか、極めて独自性が強く普遍性のない誤った考え方に捕らわれているか、間違っていることがわかった上でアドバイスして「はてな」を徹底的に混乱させて壊滅させようとしているかの、いずれかであろう)、すべてを白紙に戻し、法令や裁判例に関する「正しい理解」を、まず行った上で、利用規約やプライバシーポリシーの改訂とか、利用者からどのような情報をどこまで求めるか、といったことを決めないと、このままでは恥の上塗りを続け満天下の物笑いの対象になるだけであり、日本のインターネット史上、永遠に残る汚点となりかねない。
ロースクールで学んでいる皆さん(現行司法試験合格を目指している皆さんも)は、判例、裁判例というものを、このように間違って理解しているようでは、いくら寝食の暇もなく勉強していても、絶対に司法試験には合格できないので、くれぐれも注意していただきたい。