裁判官

下記の新任判事補のブログを見ていて改めて感じたのは、裁判官の仕事の責任の重さである。裁判官の判断は、人の生死さえ左右する。検察官や弁護士の判断が軽いというわけではないが、最終判断を下す裁判官のそれには、到底及ばない。
以前、大岡昇平の「事件」を読んだとき、登場する弁護士(元ベテラン裁判官、NHKのドラマでは若山富三郎が演じていた)が、裁判官当時を振り返り、当事者には目標がある、裁判官にはそれがない、何が真実かを考え結論が出ず苦悩する日々があったことを思い出す、といった一節があり、深く共感を覚えたことがあった。あの一節は、おそらく、大岡昇平が、「事件」を書くにあたってアドバイスを受けた、故・伊達秋雄弁護士(元裁判官・砂川事件の伊達判決で著名)の体験が生きているのではないかと思う。
伊達秋雄氏については、ここで紹介されていた。

http://www.chunichi-tokai.co.jp/kake/kake127.shtml

法政大図書館には、伊達に関する論文、資料が今も多く残る。それらによると、高校時代の伊達は軍事教練に反対して安倍川渡河演習を拒否したり、銃掃除の命令に従わなかったという。昭和十七年には、満州国司法部刑事司参事官として大陸へ渡ったが、不当に拘束され、強制労働を強いられた中国人らを次々と釈放した、との逸話が伝わっている。
 伊達は京大在学中、当時法学部長だった先輩の故宮本英雄(明40卒)から「裁判官は人間味が大切。被告人から『この人の裁判を受けてよかった』と思われるようになれ」と薫陶を受けた。「法廷は厳粛に、といわれるが、被告人は人生の瀬戸際に立たされているわけだから、感情に激し抑制のきかないこともあり得る。私はむしろ法廷は和やかにという気持ちが強かった」と後に語った。

司法試験合格直後だったと思うが、伊達秋雄氏の

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?W-NIPS=9860445354

を読んで、その中で、刑事裁判というのは、民事裁判と違って、法律上の問題点はあまりないが、同じ判決でも、あの裁判官の判決なら、と言って納得する被告人もいれば、あの裁判官の判決では、と言って納得しない被告人もいて、人間味が出るところがおもしろい、といった一節があって、おもしろく読んだ記憶がある。今では、古書店でしか手に入らないようで、惜しい。