タイ占拠地の子供・女性、「人間の盾」の懸念

http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100516-OYT1T00631.htm

政府にとっては、子供らの存在が、強制排除実施の障害になっているのは間違いない。子供らの死傷者が多数出れば、国内外から非難を浴びるのは必至で、政権崩壊の引き金になる可能性もある。そのため、治安本部は子供と女性、高齢者に対して17日午後3時までの退去を勧告し、移動用のバスも用意するなど、必死の「説得」を続けている。
一方で、UDD幹部は本紙に対し、「子供と女性は家に帰るように促している」としながらも、実際の退去については「両親の意思が最優先」と話し、熱心でない。

戦前の2・26事件の際には、戒厳司令官から「兵に告ぐ」として、「勅命」を強調しつつ速やかに原隊へ復帰するようラジオ放送が行われましたが、タイ争乱でも、最終局面では国王の権威に頼りつつ事態収拾を図るしかないのではないかという気がします。
一般市民にも次々と死傷者が出ているということであり、居住する外国人の身にも確実に危険が及んでいて、単にタイの内政問題ということで諸外国が傍観していて良いのか、ということも、そろそろ考えなければならないでしょう。

保管又は処分した国産牛肉の量に応じて交付される補助金につき、対象外の牛肉等を上乗せして補助金の交付を受けた場合、補助金等不正受交付罪は、交付を受けた補助金全額ではなく、上乗せした牛肉に係る受交付額について成立するとされた事例

最高裁平成21年9月15日第二小法廷決定で、判例時報2070号60頁以下に掲載されていました。補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項違反の罪(補助金等不正受交付罪)がいかなる範囲で成立するかについての判断が示されています。
これについては、判例時報のコメントで紹介されている通り、成立範囲は正当に受給できたものを含むとする全額説と、正当に受給できたものが可分であればそれを超えた不正受給分についてのみ成立するとする差額説があり、本件の原判決までは全額説に立っていた一方、差額説に立つ下級審裁判例もあるという状況の中、最高裁は、同罪について、不正の手段と因果関係のある受交付額について成立すると解し、本件でも、そのような因果関係のあるものは「対象牛肉以外の又は実在しない牛肉に係る受交付額」(不正受給分)であるとして、原判決が法令の解釈適用を誤ったものとしています(犯罪の成立に影響を及ぼさず量刑も不当とは言えないとして上告は棄却)。
詐欺罪が問題になる場合、騙取金に正当に受け取るべき金が含まれていても、相手方が錯誤に陥っていなければ全額を交付しなかった、として全額につき詐欺罪が認定されるのが通例で、上記の全額説は、それとパラレルに考えようとするものではないかと思われますが、最高裁が、そのような考え方には立たず判断手法を明示した意義は大きいでしょう。
判例時報のコメントでは、「生活保護の不正受給罪など補助金等不正受交付罪と同様の構成要件が規定されている犯罪が存することにもかんがみると、実務上意義のある判例であると思われる。」としていて、他の犯罪の解釈への影響ということも、今後、検討する必要があります。

パロマ元社長らへの判決要旨

http://www.kahoku.co.jp/news/2010/05/2010051101000907.htm

パロマ工業ガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒死傷事故の11日の東京地裁判決要旨は次の通り。

7機種は短絡が容易な構造で、不正改造による事故が繰り返し発生しており、事故防止対策を取る義務があった。同社は13件の事故のうち12件について、短期間のうちに発生の連絡を受け、原因情報を入手。7機種に関し、独自に注意喚起の徹底、点検・回収の措置を行うことは可能だった。以上から、両被告は、危険性を自ら、あるいは担当者に指示するなど刑法上の注意義務を負う立場にあった。

本件の直接的な原因は、上記のような不正改造で、パロマ側の責任(があるとして)は二次的、間接的なものでしょう。そういった立場で、特に、厳格に判断されるべき刑事責任(業務上過失)が存在すると言えるのかは、やはり慎重に検討されるべき問題ではないかと思います。
事案自体は異なりますが、同じ罪名が問題になり、厚生省の課長の不作為責任(二次的、間接的な責任と言えるでしょう)が問題になった薬害エイズ事件で、最高裁は、その刑事責任を肯定するにあたり(平成20年3月3日決定)

本件非加熱製剤は,当時広範に使用されていたところ,同製剤中にはHIVに汚染されていたものが相当量含まれており,医学的には未解明の部分があったとしても,これを使用した場合,HIVに感染してエイズを発症する者が現に出現し,かつ,いったんエイズを発症すると,有効な治療の方法がなく,多数の者が高度のがい然性をもって死に至ること自体はほぼ必然的なものとして予測されたこと,当時は同製剤の危険性についての認識が関係者に必ずしも共有されていたとはいえず,かつ,医師及び患者が同製剤を使用する場合,これがHIVに汚染されたものかどうか見分けることも不可能であって,医師や患者においてHIV感染の結果を回避することは期待できなかったこと,同製剤は,国によって承認が与えられていたものであるところ,その危険性にかんがみれば,本来その販売,使用が中止され,又は,少なくとも,医療上やむを得ない場合以外は,使用が控えられるべきものであるにもかかわらず,国が明確な方針を示さなければ,引き続き,安易な,あるいはこれに乗じた販売や使用が行われるおそれがあり,それまでの経緯に照らしても,その取扱いを製薬会社等にゆだねれば,そのおそれが現実化する具体的な危険が存在していたことなどが認められる。
このような状況の下では,薬品による危害発生を防止するため,薬事法69条の2の緊急命令など,厚生大臣薬事法上付与された各種の強制的な監督権限を行使することが許容される前提となるべき重大な危険の存在が認められ,薬務行政上,その防止のために必要かつ十分な措置を採るべき具体的義務が生じたといえるのみならず,刑事法上も,本件非加熱製剤の製造,使用や安全確保に係る薬務行政を担当する者には,社会生活上,薬品による危害発生の防止の業務に従事する者としての注意義務が生じたものというべきである。

という判断を示しています。
「多数の者が高度のがい然性をもって死に至ること自体は必然的なものとして予測された」「危険性についての認識が関係者に必ずしも共有されていたとはいえず(中略)医師や患者においてHIV感染の結果を回避することは期待できなかった」「それまでの経緯に照らしても,その取扱いを製薬会社等にゆだねれば,そのおそれが現実化する具体的な危険が存在していた」といった、最高裁が指摘するような事情が意味するものは、そのような差し迫った危険を防止できる唯一の存在でありそうであるからこそ刑事責任まで生じる、という趣旨ではないかと思われ、そのような観点でパロマ事件を見た際、果たしてパロマ関係者にそこまでの高度の注意義務を課すだけの事情があったのか、疑問が残るところです。
このような、二次的、間接的立場にある者の刑事責任が、世論の高まりの中で幅広く追及されやすい傾向が、特に最近は生じていますが、過度な、苛察にわたる刑事責任追及は、人の行動、活動の自由を過度に制約、委縮させる危険性もはらんでいるものであって、慎重な検討が必要ではないかと思います。
今後の上訴審における慎重な検討、判断に期待したいという気がします。