ビルに設置された大型回転ドアに児童が体を挟まれて死亡した事故について、メーカーにおける開発、設置の責任者及び当該ビルの管理会社における設備の改修、管理、運営の責任者に業務上過失致死罪が成立するとされた事例(業務上過失致死被告事件、東京地裁平成17・9・30判決、有罪・確定、判例時報1921号154頁)

六本木ヒルズで起きた回転ドア事故に関する東京地裁判決です。

過失の認定については、特に特筆すべきものはなく、手堅く認定されており、一審で確定しています。

私が特に注目したのは、次の2点です。

1点目は、判決文を読むと、重大な結果を回避するチャンスが何度かあったのに生かされておらず、悔やまれるということです。「事実認定の補足説明」の中で、

なお、平成13年ころ、株式会社三越恵比寿店において、三和タジマ製の自動回転ドアで挟まれ事故が続発し、同年4月27日にも戸先と固定方立の間に子どもの足が挟まれる事故が起きた。関係者の協議の結果、同年5月ころ、戸先のゴム製緩衝材が柔軟な材質のものに取り替えられ、また、同年10月には飛び込み防止用パネルとゴム製緩衝材を新たに設置したところ、挟まれ事故がなくなった。
(第二・二・(3)・ウ)

と認定されていて、上記の三越恵比寿店での改善策が、非常に効果的だったことが明らかになっています。
ところが、六本木ヒルズ森タワーではどうだったかと言うと、次々と回転扉の挟まれ事故が発生し、平成15年12月7日には、6歳の児童が回転ドアに約4分間にわたって挟まれ、頭部挫創等の傷害を負う、という事故が発生したにもかかわらず、その後も、

同月9日、被告人C、E課長及び三和タジマ回転扉プロジェクト係長のG(以下、G係長と言う。)らとの間で、安全対策協議がもたれた。その際、G係長は、被告人Cらに対し、三越恵比寿店の自動回転ドアに設置された飛び込み防止パネルとゴム製緩衝材を撮影した写真などを見せ、そこでは警備員も配置されていると説明した。これに対し、E課長からは、このパネルは見栄えが悪いなどとして、別の防止策の図面を作成するよう求められた。
(第二・二・(5)・ア)

と、森ビル側が「見栄え」を理由に飛び込み防止パネルを採用しなかったり、平成16年に入っても、

同年2月19日ころ、G係長は、進入防止柵の図面を作成し、ゴムメーカーに緩衝材の製造を依頼したものの、メーカーの見積もりとE課長が求めていた予算の折り合いが付かなかったことなどから、その完成には至らなかった。
(第二・二・(5)・オ)

と、森ビル側の予算の都合で、三越恵比寿店で大きな効果が出たゴム製緩衝材が採用されることもなく、お座なりの対策しか講じられないまま、遂に、本件事故の発生に至ってしまったことが明らかになっています。
森ビル側が、つまならない「見栄え」にこだわらなかったり、予算をオーバーしていても必要な安全策を講じていれば、三越恵比寿店と同程度の対策が講じられて、少なくとも死亡事故には至っていなかったものと思われます。
以上を踏まえつつ、2点目として、感じたのは、過失の軽重に関する裁判所の判断に対する疑問です。
東京地裁は、起訴された被告人(Aはメーカー、B、Cは森ビル)のいずれについても過失を認定した上で、「量刑の理由」で、

なお、被告人3名の刑事責任の軽重についてみるに、前期のような危険性について十分な説明を受けていなかったこともあって、安全対策への配慮を欠くに至った被告人Bや、被告人Cの過失に比べ、シノレスを開発し、その危険性を容易に認識できた三和タジマの責任者であった被告人Aが十分な安全対策を講じないままに森タワーに設置して運転させ続けた過失の方が大きく、その刑事責任も重いと評価できる。
(二・(4))

と判断していますが、森ビル自らが管理する建物において、次々と同種事故が発生していながら(平成13年3月から本件事故までの間に、森タワーで同種事故が13件発生し、うち7件は8歳以下の児童が被害者となっていたと判決では認定されています)、見栄えだの、予算だのと言いつつ、抜本的な対策を講じなかった森ビル側の過失も大きく(三和タジマ側が、三越恵比寿店の対応例を踏まえ具体的な提案を行っていることにも注目すべきでしょう)、判決文を読む限り、過失は同等か、むしろ、森ビル側のほうが幾分か重いのではないか、という印象を受けました。
特殊業過に関する裁判例は、それほど数がなく、今後の参考になるものと思いました。

参考:

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20051012#p2

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050930#1128090714

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050813#1123902230

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050624#1119577925

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050416#1113582303

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050326#1111827987

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050317#1110995488

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050305#1109998688

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050127#1106754862

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050126#1106694037

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050118#1106045704

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041101#1099269294

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20041004#1096898998

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20040812#p4

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20040812#p5

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20040719#p2

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20040717#p8

「花吹雪」(柴田淳)

花吹雪(初回限定盤)(DVD付)

花吹雪(初回限定盤)(DVD付)

初回限定版にはDVDが付いていて、早速、鑑賞しましたが、柴田淳が、歌だけ歌わせておくにはもったいないくらい、きれいに撮れています。

「関ヶ原」(司馬遼太郎)

関ヶ原

関ヶ原

司馬遼太郎作品の中で、3作あげよと言われたら、私は、世に棲む日日、花神と、この「関ヶ原」をあげます。

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060415#1145083205

でも述べた、細川ガラシャの最期のシーンも登場し、全編、見せ場満載です。連休で、どこにも行かずに退屈している方は、試しに読んでみてください。

小和田哲男教授の著作

先日、

山内一豊 負け組からの立身出世学」
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20060415#1145029108

を読みましたが、同じシリーズで、過去に、

豊臣秀次―「殺生関白」の悲劇 (PHP新書)

豊臣秀次―「殺生関白」の悲劇 (PHP新書)

明智光秀―つくられた「謀反人」 (PHP新書)

明智光秀―つくられた「謀反人」 (PHP新書)

石田三成―「知の参謀」の実像 (PHP新書)

石田三成―「知の参謀」の実像 (PHP新書)

が出ており、いずれも、なかなかおもしろい内容です。私の場合、読んでみて、知っている部分と知らない部分があり、知識が整理でき、また、知っている部分についても、意外と不正確だったり勘違いしていたところもあって、勉強になりました。新書で、さらっと読めるので、お勧めできます。

米同時テロに関与、ムサウイ被告に終身刑 米連邦地裁

http://www.asahi.com/international/update/0504/002.html

弁護側は、被告が死刑になることによって殉教者になろうとしていると主張した。法廷の広報官が明らかにしたところでは、陪審は一致してこの見方を退けた。しかし、同時に被告が9・11のテロについては限られた知識しか持ち合わせていなかったと、3人の陪審が信じたという。

私は、アメリカ礼賛主義者ではありませんが、あれだけの大事件で極めて多数の人命が失われている中で、関与したことが明らかな者について、「限られた知識しか持ち合わせていなかった」と冷静に判断し、死刑を回避する、というところに、アメリカの陪審制の厚みを感じます。
制度を作り、関係者が鐘に太鼓で大騒ぎしても、どうにもならない部分が確実に存在する、ということでしょう。

平塚・5遺体事件、1遺体は84年に失踪の男児か

http://www.asahi.com/national/update/0504/TKY200605030228.html

「失踪」という届出がされた当時、警察がどのような捜査を行い、その後、どのように継続していたかはよくわかりませんが、84年に失踪とされた男児の遺体と確認された場合、その当時の初動捜査も検証されることになるでしょう。
謎が多い事件です。

宗男議員宅 空き巣侵入

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060504-00000016-san-soci

警視庁赤坂署員が駆けつけたところ、一階の窓ガラスが破られているのを発見した。盗難被害は確認されていないが、二階と三階に荒らされた跡があり、同署で空き巣とみて捜査している。

これを、単なる空き巣と見てよいかどうかは、即断できないのではないかと思います。この種の人物に対するこの種の事件は、別の目的による侵入とか、何らかの警告を発するため、など、単なる空き巣、物盗りにとどまらない場合があります。安易に右から左に片付けず、当面、注意したほうがよいと思います。>警視庁、赤坂署

「生体解剖」に留意せよ?

http://blog.business-i.jp/kimura/2006/05/index.html

ライブドアの粉飾事件に関してあまり認識されていないが、極めて重要なことがある。それは、数千億円の時価総額を持っていた上場企業が「生体解剖」されたという事実だ。粉飾決算の摘発は他の先進国でも実施されているが、生体解剖は経営者が自ら粉飾を認めたときに限られる。その意味でライブドア事件エンロン事件は違う。エンロンの場合、内部告発を受けて会社内部で調査した結果、会社が粉飾を認めている。
もし、報道が示しているようにナンバー2と会計士の自白によって、粉飾が立証されるとするならば、他の上場企業は覚悟しておくべきだ。尋問された関係者が自白するだけで粉飾と認定され、退場を迫られかねない。これは他の先進国にはない激烈なリスクだ。それを認識するならば、当局による自浄作用ではなく、制度としての自浄作用をもっと機能させたほうがよいという判断になる。

会社や幹部が粉飾を認めない限り、摘発を受けることも、上場廃止になることもない、という制度が「正しい」制度とは思えないですね。認める、認めないではなく、事実認定として、粉飾があったことをきちんと認定できるか、が問題でしょう。
この人の頭の中では、認める、認めない、ということと、犯罪(違法)事実が存在する、存在しない、ということが、ごちゃごちゃになっていて、存在しないものも、認めれば存在したことになる、逆に、存在するものも、認めない限り、存在しない取り扱いにしてもらえる、という勘違いがあるようですが、ライブドア事件にしても、その他の粉飾事件(カネボウなど)にしても、そこまで底の浅い事件ではないでしょう。