東京高裁で刑事事件記録を閲覧していて

数日前、東京高裁で刑事記録を閲覧していて思ったのですが、捜査の際、特に問題のない事件で、あまりにも詳細な実況見分調書等を作成するのは、捜査経済上、得策ではないのではないか、と思いました。私が見たのは引ったくり(窃盗)事件のものでしたが、共犯者が2名いて、ともに自白しているという、証拠関係としては「固い」事件であるのに、引ったくりまでの行動経路、引ったくりの際の状況、その後の逃走経路等について、かなり詳細に、相当数の写真も添付して実況見分調書が作成されていました。
丁寧にやって、「いけない」という人はいないと思いますが、この程度の事件で、これほどの手間暇をかける意味があるのか、疑問に思いました。
やはり、メリハリをつけて、難しい事件には相応の時間をかけ、それほどではない事件については、ポイントをしっかり押さえつつ省力化する、という進め方をしないと、これだけ事件数が増えてる中で、とても回って行かなくなるのではないかと強く感じました。

「児童ポルノを被告人に還付すること」は許されない?

奥村弁護士のブログ

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20041213#p1

で取りあげられていた件ですが、確かに、新法で、特定少数への児童ポルノ提供行為が処罰されるようになったため(7条1項)、児童ポルノを被告人に還付するという行為自体が、少なくとも「提供罪」の構成要件に該当することは避けられそうにありません。
それでは、違法性が阻却されるか、というと、考えられるのは刑法上の正当業務行為ですが、いかに還付とは言え、児童ポルノ提供を「正当」視することは困難ではないかと思います。
そうすると、還付できないので、永久に還付できないまま裁判所や検察庁が保管している、ということになりますが、現実問題としては、事情を説明して所有権放棄させた上で廃棄処分、ということになりそうです。
単純所持自体を処罰せず、提供行為を広範囲に処罰すると、こういった、妙な事態が生じることがわかり、勉強になりました。

防衛庁官舎で「派兵反対」のビラ、3被告に無罪判決

http://www.yomiuri.co.jp/main/news/20041216it08.htm

長谷川憲一裁判長は「結果と手段が平穏な生活を侵害したとは言い切れず、プライバシー侵害の程度は低い」として、無罪(求刑・懲役6月)を言い渡した。

これだけでは無罪理由がわかりかねますが、刑事法の世界では、「可罰的違法性」という考え方があり、処罰に値するだけの違法性(可罰的違法性)がない、として、無罪になったのかもしれません。
住居侵入罪の成否については、住居の平穏を害したかどうかを基準にする考え方(どちらかというと実質説)と、管理者の意思に反したかどうかを基準にする考え方(どちらかというと形式説)があり、後者が判例のはずです。検察庁も、後者の考え方に立って起訴したのでしょう。
後者の考え方に立つと、「管理者の意思に反した立ち入り」行為があれば、犯罪成立とされやすい面があります。
しかし、後者の考え方に立っても、違法性のレベルで、「管理者の意思には反しているが可罰的違法性がない」として、無罪になる余地はあるでしょう。
前者の考え方から無罪になった可能性があり(記事の内容ではそういう印象を受けます)、また、別の可能性として、「管理者の意思に反しているという認識、認容がなかった」、つまり、犯罪の故意がなかった、として、無罪になった可能性もあると思います。
判決の内容を是非見てみたいと思います。

追記

http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=main&NWID=2004121601001528

東京地裁八王子支部の長谷川憲一裁判長は16日「刑罰に値する違法性はない」として、懲役6月の求刑に対し無罪を言い渡した。
 判決理由で長谷川裁判長は「ビラの投かんは、憲法21条の保障する政治的表現活動であり、いきなり検挙し刑事責任を問うことは、憲法の趣旨に照らし疑問」と述べた。

この記事から見ると、可罰的違法性の問題とされている印象を受けます。