ACCS裁判を追う 元研究員「HTMLソースの改変は通常の閲覧の範囲」

http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0410/20/news047.html

例の事件です。

例え話を多用し、質問にゆっくりと答える元研究員に対して、検察官が「質問に答えなさい」と声をあげ、裁判長に制止されるシーンもあった。

被告人には黙秘権が保障されていますし、公判は、あくまで「公判」であって、検事の取調室ではないので、こういう尋問は見苦しいと思いますね。昔、読んだ大岡昇平の「事件」

事件新潮文庫

で、予審判事(旧刑事訴訟法では、予審判事が捜査を主宰し強制処分や尋問等を行っていたものです)の経験がある刑事弁護人が、証人の、被告人に不利な証言を、予審法廷ならじっくり崩せる、と思いつつ、尋問テクニックを駆使して、じわりじわりと崩して行く場面が印象的でしたが、こういう検事には、是非、一読することを勧めたいと思います。
「事件」を読むと、刑事事件の事実認定の難しさ、真実に迫りながら迫りきれないもどかしさ、といったものがよくわかります。

「その人たち」には、私も入っているのか?

昨日、弁護士会の書店で、

治安復活の迪―私の警察論

を購入して、拾い読みしているところです。前警察庁長官の著書ですが、この手の警察官僚(元を含む)の本には、捜査に対する熱意は強く感じられるものの、今一つ理論的ではないものが多い中で、この本では、警察の立場を理論面から根拠づけようという努力がなされており、私のような経歴の法曹にも、参考になる一冊だと思いました。
本は良いのですが、問題と思われたのは、279頁から280頁に出ている、東京都立大学前田雅英教授の座談会における発言。
前田教授は、警察庁主催の総合セキュリティ対策会議

http://www.npa.go.jp/cyber/security/index.htm

の委員長で、私も、時々、その会議には顔を出す機会があります。
出席者は、皆、忙しい人ばかりで、時間をやりくりして出席しているわけです。
この座談会は、平成16年1月に、警察学論集に掲載されており、平成15年11月7日に実施したということが記載されていますが、平成15年度の上記の会議では、

http://www.npa.go.jp/cyber/security/h15/gaiyou.htm

といったことが話し合われていました。
ところが、前田教授が何と言っているかというと・・・

私も警察庁のサイバー関係の犯罪対策の仕事も若干させていただいていますが、そこには総務省からも委員が来ていて、プロバイダーや通信事業者、ユーザーの代表も来るわけです。その場で、まさに私が一番感じているのもそこですね。

この発言は、上記の会議を指しているとしか考えられないので、そういう前提で話を進めます。
これは、その前の、出席者による「通信の秘密」をどう捉えるかが大きな問題だ、という発言を受けていますが、そもそも認識がおかしいと思うのは、委員は、好きで「来ている」のではなく、警察庁に依頼されて、「出席させられている」んですよ。まず、この点からして認識がおかしい。
もっとおかしいのは次です。

通信の秘密とか憲法上の権利というのは絶対不可侵で、比較考量ができないみたいな議論になるんです。しかし、国家を揺るがすような重大な犯罪で、その証拠になるような情報をログとして保存しておけというのが、なぜ通信の秘密とのバランスで消されなければいけないのか。ですから、私は一貫してログの保存ということを強調して、その人たちから嫌われているんです(笑)。

どうも、いい加減なことを吹聴して笑っていたようですが、私も、「その人たち」の中に入ってるんですかね。
例えば、平成14年3月28日の会議

http://www.npa.go.jp/cyber/security/h13/youshi3.htm

では、

一定限度のログの保存の必要性についての議論は必要。
ログは、被害を受けた国民の保護のために、民事裁判においても必要とされる。データ保存は国民の裁判を受ける権利の確保に資するものである旨を記述すべき。また、保存の在り方やコスト負担の点についても記述すべき。
技術的な見地から、データ保存等が犯人追跡のために果たして有効なのかという議論がある。
技術、制度、法律、運用といった多面的な議論をすることが望ましい。
数でいえば、ログが保存されていたので捕まった事例の方が多い。

といった議論も、きちんとされているわけです。警察庁のサイトで、会議の状況を見てもらえばわかるとおり、前田教授が座談会で放言しているような、

「通信の秘密とか憲法上の権利というのは絶対不可侵で、比較考量ができないみたいな議論」

はなされていませんし、

「国家を揺るがすような重大な犯罪で、その証拠になるような情報をログとして保存しておけというのが、なぜ通信の秘密とのバランスで消されなければいけないのか」

という議論は、上記の会議のテーマとは大きくはずれています。そもそも、ログの保存という問題は、現在、国会でも審理中の刑事訴訟法改正案の中で「保全要請」といった形で制度化されようとしていますが、それでさえ、通信の秘密等への配慮から、あくまで任意のものであるという前提で検討されており(証拠として差し押さえるのは令状による)、前田教授が軽々しく放言するような簡単な問題ではありませんし、上記の会議でも、委員は、あくまでログの保存ということについては慎重な検討が必要であると主張しているだけで(こういった意見は日弁連なども主張しており、決しておかしな考え方ではありません)、

「通信の秘密とか憲法上の権利というのは絶対不可侵であり、比較考量できず、国家を揺るがすような重大な犯罪であっても、その証拠になるような情報をログとして保存しておくべきではない」

などとは、まったく言っていません。
それを、そのようにこじつけ、委員を悪者にした上で、

「私は一貫してログの保存ということを強調して、その人たちから嫌われているんです(笑)。」

などと、あたかも、自分だけが正論を述べているような体裁をとり(実際は、委員長でありながらまともに意見もとりまとめられず、いつも問題を先送りしているだけですが)、結局、上記の会議の委員を馬鹿者扱いして嘲笑しているわけです。
まったく、とんでもない奴と言うしかありません。
委員長が、こういった無責任かつ、他の委員に対して大変失礼なことを平気で放言しているようでは、会議の成果は期待できないと思いますし、年度途中であっても、解散してしまったほうがいいんじゃないでしょうか?>警察庁
少なくとも、自分が能力不足で意見も取りまとめられないことを棚に上げて、座談会でいい加減なことを放言して笑っているような委員長は解任して、もっとまともな委員長のリードにより、議論を進めるべきでしょう。
治安重視で警察寄りの学者に依存するのも結構ですが(私も、別に治安を軽視しているわけではありませんが)、「度が過ぎると」人々の信頼を失い、所期の目的を達成することも困難になるという好例だと思います。

電話加入権、来年まず半額に 内閣法制局「財産」と見解

http://www.asahi.com/business/update/1021/053.html

ただし、総務省は、権利の価値は市場の価格に連動すると受け止めており、段階的に減じれば財産権への侵害には当たらない、とみている。

この点も、内閣法制局にしっかり確認しておくべきでは?「財産権」ではないという「強弁」が、早速、否定されているわけですからね。
減価償却の対象にすればよい、といった議論も平気でなされているようですが、個人で、業務用に使用していない人は減価償却できませんよ。あまりにも個人を軽視していると怒りを感じます。

ケロヨンクラブ

昔、オウム真理教関連事件の捜査に関わっていたとき、オウム真理教の教義について、いろいろと資料を読んで勉強したことがありました。今は、かなり忘れてしまいましたが、その時、強く感じたのは、「グルへの絶対的な帰依」というものが、非常に重視されている教義である、ということでした。原始仏教では、釈迦が、帰依した弟子に囲まれ、教えを授けながら悟りへと導いて行く、という状態だったようですが(専門外なので不正確な言い方になっているかもしれません)、そこでは、絶対的な帰依、というものが前提になっていたのだろうと思います。
しかし、問題なのは、そういった帰依の対象が、教えを受けるのに値しない、それだけではなく、積極的に犯罪行為を行うような存在であったらどうするか、ということです。当然、非常に危険な犯罪者集団になってしまうでしょう。サリン事件など、次々と凶悪な事件を起こしたオウム真理教は、正にそのような状態であったと、今振り返ってみても思います。
ケロヨンクラブの実態について、私は報道によってしか知りませんが、現在、裁判中の教祖に対して、絶対的な帰依を誓っている集団であるようで、上記のような意味での危険性をはらんんでいることは否定できないと思います。

オウム分派の幹部ら4人、傷害致死容疑で逮捕 警視庁

http://www.asahi.com/national/update/1021/014.html

警視庁公安部、東京地検公安部は、ケロヨンクラブ(他に呼び方もないので、こう呼んでいますが、なんか滑稽な感じですね)の実態を解明する絶好の機会と考えていることでしょう。
ケロッピークラブとか、他にも呼び方はあると思いますが、警察幹部の語感では、「カエル」と言うと、「ケロヨン」という感じなんでしょうか。

バスの屋根、肩組み歌って乗り切った夜 救助の乗客ら

http://www.asahi.com/national/update/1021/019.html

午前2時ごろ。水位は屋根より高くなり、一時は屋根に立っていても、へその辺りまで来た。周囲は真っ暗だ。肩を組み、ひたすら、励ましあった。

これでよく助かったものだと思います。運もあったのでしょう。テレビで「九死一生スペシャル」とかがあったら、取り上げられそうです。

事件書類など106通隠す=31通紛失も、職員懲戒処分−山口家裁

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20041021-00000254-jij-soci

事件書類を隠す行為は、刑法上の「公用文書等毀棄罪」に該当します。法定刑は、3月以上7年以下の懲役、と、かなり重くなっています。これだけ大量の文書を隠し、紛失までしているのに、減給1か月程度の処分で済ますのは、処分するほうも、本当に頭がどうかしているのではないかと思います。

事故現場不在でも危険誘発なら有罪…最高裁決定

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20041021i316.htm

具体的な事実関係の詳細はわかりかねますが、理論的には当然のことを言っているだけのように思います。時限爆弾を仕掛けてその場を立ち去る行為(これは故意犯ですが)と同様に、過失犯であっても、危険な状態を現出したままその場を立ち去れば、刑事責任が発生することに、特段奇異な印象はありません。

南野法務大臣の秘書官

相変わらず、右往左往しながら、しどろもどろで答弁しているようですが、法務大臣のそばで、かいがいしく、メモを見せたり耳打ちしたりしながらサポートしている女性秘書官は、私よりも1期上の検事です。
それにしても、あれほど無惨な状態では、秘書官も大変でしょうね。私では、とても務まらないでしょう。頭に来て怒鳴りつけたり、馬鹿らしいのでそのまま帰ったりしそうです。

南野法務大臣を見ていて思うこと

かなり荷が重そうですが、私は、ちょっと別の印象を持っています。すなわち、小泉総理は、法務大臣を重視していないんだろうな(重視する必要性を感じるような状況に身を置いていないんだろうな)、ということです。
昭和50年代以降、ごく最近まで、法務大臣は、常に、隠然たる影響力を持つ重要ポストだったと思います。田中角栄元首相が、「闇将軍」として政界に君臨していた時代には、常に、息のかかった法務大臣を送り込み(その典型的な例が秦野法務大臣でしょう)、指揮権発動をちらつかせつつ、陰に陽に検察庁に圧力をかけ、おそらく、取れた情報も、法務大臣から直接、あるいは間接に、田中派に流れていたはずです。そういった目で、田中派の流れを引く旧橋本派東京地検特捜部の、日歯連を巡る動きを見ると、長年の因縁、恩讐を感じさせるものがあります。
田中元首相が病で倒れて影響力を失った後も、東京地検特捜部による政界捜査は、常に政局へ影響を与え続けており、法務大臣の占める地位、言動といったものは、常に一定の注目を集めていたと言えますし、時の首相としても、コントロールできる、それなりに能力のある法務大臣を任命しておくことが、自らの政治生命のために必須だったと言えると思います。
このあたりの経緯は、立花隆氏の

巨悪vs言論―田中ロッキード...文春文庫

巨悪vs言論―田中ロッキード...文春文庫

が、非常に参考になります。
ところが、今の法務大臣は、あの状態です。おそらく、小泉首相としては、東京地検特捜部による政界捜査の矛先は、旧橋本派などへ向けられ、「自分は関係ない」し、捜査により抵抗勢力が排除されて好都合、程度に考えているのでしょう。あの状態では、小泉首相の目を盗んで、どこかの誰かと通謀するような芸当も、とてもできるとは思えないので、薬にもならないが毒にもならないので、まあ、いいや、と小泉首相は思っているのかもしれません(とはいえ、今の状態はあまりにもひどすぎますが)。